貴婦人と一角獣

「貴婦人と一角獣」（フランス語: La Dame à la licorne）は、フランスの中世タペストリーを代表する作品で、6枚から成る連作です。制作された時期や場所は特定されていないものの、パリで下絵が描かれた後、15世紀末にフランドルで織られたと考えられています。

テーマと内容

このタペストリーの主題は当初不明とされていましたが、現在では五つの感覚「味覚」「聴覚」「視覚」「嗅覚」「触覚」と、そして「我が唯一つの望み」の6つのテーマを表していると理解されています。「我が唯一つの望み」は特に謎に包まれ、一般的には「愛」や「知恵」と解釈されることが多いです。

タペストリーには、中央に貴婦人が描かれ、向かって右側にはユニコーン、左側にはライオンがいます。加えて猿も描かれている作品もあり、背景は千花模様（ミル・フルール）で飾られています。色とりどりの花や小動物が散りばめられ、小宇宙のような幻想的な世界を形作っています。

また、タペストリーにはフランス王シャルル7世の宮廷に所属していたジャン・ル・ヴィストの紋章（三つの三日月）が含まれています。このことから、彼がこの作品に深く関与していた可能性が示唆されています。

歴史的背景

1841年に、歴史記念物監督官だったプロスペル・メリメがクルーズ県のブーサック城でこのタペストリーを発見しました。保存状態は悪く損傷が見られましたが、小説家のジョルジュ・サンドが彼の文学作品『ジャンヌ』の中でこのタペストリーを取り上げたことで、再び世の中の注目を集めました。1882年には国立中世美術館に移され、現在までその地で展示されています。

このタペストリーは長い間国内外での展示が限られていましたが、2013年には日本で「フランス国立クリュニー中世美術館所蔵展」が開催され、多くの来場者がその魅力を実感しました。また、2018年にはオーストラリアのニュー・サウス・ウェールズ州立美術館でも展示されました。

各タペストリーの特徴

1. 味覚（Le goût）
貴婦人が従者から砂糖菓子を受け取りつつ、左手の上にいるオウムにも差し出しています。背景には薔薇の生垣が形作られ、貴婦人の足元では猿が果物を楽しんでいます。

2. 聴覚（L'ouïe）
このタペストリーでは、貴婦人が小型のオルガンを演奏しており、侍女がそのふいごを動かしています。ユニコーンとライオンが貴婦人の周りに位置し、彼女に寄り添っています。

3. 視覚（La vue）
貴婦人が手鏡を持ち、ユニコーンが彼女の膝の上に前脚を乗せて自らの姿を見ています。ライオンも旗を掲げる姿勢で描かれています。

4. 嗅覚（L'odorat）
貴婦人は花輪を作る作業をしていて、侍女が花の入った籠を差し出しています。猿が後ろから花を取って香りを楽しんでいるシーンが描かれています。

5. 触覚（Le toucher）
貴婦人がユニコーンの角に触れつつ、自ら旗を掲げる姿が描かれています。ユニコーンとライオンはその旗を見上げている状況です。

6. 我が唯一つの望み（À mon seul désir）
このタペストリーは特に幅が広く、他のタペストリーとは異なる構図を持っています。貴婦人が小箱にネックレスを納め、ユニコーンへの情熱を表す場面と解釈されています。この一枚は多くの解釈を生み出し、「理解すること」や「愛」、「結婚の準備」を示すものとも見なされています。

フィクションと文化的影響

「貴婦人と一角獣」は、その神秘的な内容と美しい描写から多くのフィクション作品にも影響を与えています。トレイシー・シュヴァリエの小説『貴婦人と一角獣』や、ジョルジュ・サンドの小説『ジャンヌ』など、多彩な作品でこのテーマが取り上げられています。また、アニメーション楽曲や他の文学作品にもその影響は見られます。

このタペストリーは中世文化の重要な証であり、現代においてもその美しさと神秘性で魅了し続けています。

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