貴田孫兵衛

貴田孫兵衛：豪傑 毛谷村六助としての伝説

貴田孫兵衛（きだ まごべえ）は、安土桃山時代に活躍した武将であり、加藤清正の家臣として知られています。貴田統治（きだ むねはる）とも呼ばれ、勇猛果敢な人物として名を馳せました。また、毛谷村六助（けやむら ろくすけ）の名でも広く知られ、歌舞伎などの題材となり、多くの人々に親しまれています。

生涯

貴田孫兵衛は、加藤清正に仕え、900余石を知行しました。俗に「加藤十六将」の一人として数えられています。文禄・慶長の役（文禄の役）では、三番隊下川又左衛門の指揮下、鉄炮衆40名を率いて従軍し、戦場では母衣を纏って戦いました。

『清正記』や『加藤家傳』によると、加藤軍のオランカイ（満州）攻めの際に、森本一久と一番乗りを競い合い、討ち死にしたとされています。孫兵衛の死後、清正は身内を探し出し、その名跡を継がせました。それが弟とされる貴田孫兵衛玄蕃（後に貴田玄蕃正勝と名乗る）です。玄蕃は熊本城の築城などに携わりました。加藤家の改易後は、紀州徳川家や若狭酒井家からの仕官の誘いを断り、一時浪人生活を送りますが、後に尼崎藩青山氏に筆頭家老として仕えました。築城に優れた才能を発揮したため、江戸幕府は日光東照宮の石垣造営のために、青山氏に玄蕃を差し出すように命じたと伝えられています。

もう一人の弟、貴田角右衛門は中津藩細川氏に仕官し、その後、細川家と共に肥後へ移りました。角右衛門の子孫が九州一円に広がったのに対し、玄蕃の子孫は、兵庫県尼崎から関西一円、そして青森から東北へと分布しています。

豪傑 毛谷村六助の伝説

孫兵衛は毛谷村六助の名で広く知られていますが、史実と伝説を区別して理解する必要があります。

江戸時代の軍記本『鎮西御軍記』や『豊臣鎮西軍記』には、孫兵衛は前名を毛谷村六助といい、女の仇討ちを助けたという物語が記されています。この物語が天明年間（1781年～1789年）に人形浄瑠璃『彦山権現誓助剣』として上演され、人気を博しました。その後、歌舞伎の演目にもなり、大正時代には映画化もされています。さらに、韓国の民間伝承である論介伝説では、晋州城攻防戦の際に南江で水死した人物と同一視されています。

大分県中津市山国町毛谷村や福岡県添田町には、木田孫兵衛（毛谷村六助）の墓が存在します。この地を離れる際に、生前に頭髪を墓に埋葬した（口伝）ことから、逆修塔であると考えられています。幕末の旅絵師・蓑虫山人が元治元年（1864年）にこの地を訪れ、槻村六助の墓として五輪塔の絵を『蓑虫山人絵日記』の中に描いています。なお、墓がある土地には喜登という古民家が建っていましたが、平成3年（1991年）の台風により倒壊しています。

毛谷村集落に唯一残る享保元年（1716年）の『毛谷村六助畧縁起』には、この地で62歳で亡くなったと伝えられています。歌舞伎などで有名になった後に作られたものである可能性もありますが、貴田孫兵衛は加藤清正の書状に名前が登場することから、実在した人物であると考えられています。

佐賀県唐津市名護屋には、六助社というお堂があります。朝鮮で討たれた孫兵衛の亡骸は塩漬けにされて名護屋で埋葬され、その場所に六助社が建立されたと伝えられています。孫兵衛が俊足であったことから、足の神様として祀られています。また、名護屋の喜田神社でも貴田孫兵衛統治が神として祀られています。

彦山権現誓助剣

天明6年（1786年）に竹本千太郎座によって初演された、梅野下風・近松保蔵合作の十一段からなる時代物の浄瑠璃です。英彦山の麓で暮らす六助が、剣の師匠である吉岡一味斎の娘で、仇討ちのために旅を続けているお園と再会し、祝言を挙げるエピソードなどを描いた九段目の「毛谷村」が特に多く上演されています。

貴田孫兵衛、またの名を毛谷村六助。その名は、武勇に優れた武将として、そして義理人情に厚い人物として、後世に語り継がれています。

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