賃労働

賃労働の概念と背景

賃労働とは、労働者が自身の労働能力を対価として雇用主に提供する仕組みです。この労働関係は、労働者が持つ能力を商品として扱い、一定の条件に基づいて売買が行われます。雇用主は、労働者が提供する労働力を消費し、生産活動を行い、得られた利益から賃金を支払うことで成り立っています。

カール・マルクスの視点

カール・マルクスは賃労働を彼の経済理論の中心的な要素と位置付け、その成立には労働者が二重に自由であることが求められると述べました。第一に、労働者は自己の意志に基づいて労働力を販売できる自由を持ち、第二に、生産手段を保有していないため、他に生計を立てる手段がない状況に置かれます。その結果、労働者は実質的に労働力を販売することを強いられるのです。

賃労働の特徴

賃労働に従事する労働者は、雇用者からの形式的自由を享受します。しかし、労働者の真の自由は乏しく、特に生産手段を所有しない者にとって、労働力の販売は生活のために避けられない選択となります。このため、表面上の自由とは裏腹に、賃労働の関係は労働者を雇用者に対して強く従属させるものとなります。

さらに、賃金は労働能力の程度を反映したものとされていますが、実際には労働者が行う生産によって創出される価値は賃金を超えることが一般的です。この剰余価値は雇用者にとっての利益となり、労働者には見えない形で蓄積されていきます。マルクスは、このように賃金が労働者からの搾取を隠蔽している点を指摘し、資本主義の下での労働者階級の組織化と革命の必要性を強調しました。

日本における賃労働の歴史

明治維新以降、日本においても賃労働が形成され始めました。初期の段階では士族層が賃労働者となり、農村での経済的な問題から、出稼ぎや離農を選んで周辺の製糸・織物業や工場で働くようになります。また、若干の職人も新たな形態の賃労働者として再編されます。

特に明治中期には、製糸業において「女工」と呼ばれる女性労働者が大勢登場します。彼女たちは生活のために過酷な条件で働くことを余儀なくされ、長時間の労働や安価な賃金など、非常に厳しい状況の下に置かれました。また、男性労働者も漁村や鉱山で出稼ぎし、重工業の成長に伴い様々な職場で働くようになりました。

大正から昭和への変化

大正時代に入り、特に第一次世界大戦後は労働者保護の法律が整備され、労務管理の概念が経営に取り入れられました。さらに、工業の機械化が進む中、賃労働者の条件も変化していきます。従来の親方制度が消滅し、雇用側が賃労働者の採用や配置を管理するようになります。

昭和に入ると、戦争の影響で女性賃労働者の需要が増加し、製糸・紡績業だけでなく重工業にもその動きが見られました。勤労動員が強化され、若い学生や植民地出身者も生産現場に投入されるようになり、賃労働者の状況はさらに複雑化しました。

結論

賃労働は、資本主義社会における重要な要素であり、その形成や発展は多くの社会的・経済的変化に影響を受けています。その中で、労働者は表面上の自由を持つものの、生存のために労働力を売るしかないという状況と向き合っています。

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