資生園早田牧場

資生園早田牧場：栄光と挫折の物語

1917年創業の資生園早田牧場は、福島県を本場としながら、北海道新冠町に主要拠点を置く競走馬生産牧場として、日本の競馬史に大きな足跡を残しました。2002年の倒産劇は、その急成長と破滅的な終焉を象徴する出来事と言えるでしょう。

創業から躍進へ

早田家は代々「早田伝之助」を名乗る旧家で、広大な土地を所有していました。9代目が1917年に資生園早田牧場を創業しましたが、当初は規模が小さく、趣味的な要素が強いものでした。

転機は、10代当主の早田高麿（東京帝国大学卒の馬の専門家）の息子、早田光一郎の時代です。光一郎はカナダに留学し、馬産を深く学びました。帰国後、父から多額の資金を受け継ぎ、北海道新冠町に支場を設立。カナダで買い付けた優良な牝馬を基に、競走馬生産を本格的に開始しました。

光一郎は優れた相馬眼と大胆な経営手腕で、牧場の規模を急速に拡大。特に1980年代後半から1990年代にかけては、数々のGI競走優勝馬を輩出しました。レオダーバン、ビワハヤヒデ、ナリタブライアン、マーベラスサンデー、シルクジャスティス、シルクプリマドンナといった名馬は、いずれも早田牧場の生産馬です。これらの活躍は、早田牧場を社台ファームに次ぐ国内第2位の生産者へと押し上げ、日高地方を代表する牧場としての地位を確立しました。

この成功の裏には、光一郎の優れた相馬眼と、育成部門の充実が大きく貢献しています。当初は育成部門が弱体でしたが、経験豊富な人材の採用と設備投資により、育成の質が向上。その結果、預託馬の増加と高額な預託料収入が、さらなる馬の購入と牧場拡大に繋がりました。

急成長と破綻

しかし、急激な拡大路線は、資金繰り悪化というリスクを孕んでいました。1990年代半ば以降は、社台グループのサンデーサイレンス産駒の活躍により、早田牧場生産馬の需要が減少。さらに、ナリタブライアンの急死や巨額な投資による資金不足が、経営を圧迫しました。

ブライアンズタイムの種付け料収入に頼るも、状況は改善せず、2002年11月、早田牧場は約58億円もの負債を抱えて破産宣告を受けました。光一郎は資金横領の罪で有罪判決を受け、服役することになりました。

遺産とその後

早田牧場の資産の一部は、社台グループに引き継がれ、その後の競馬界に影響を与え続けました。例えば、ビワハイジはノーザンファームに移籍後、数々の重賞馬を産むなど活躍しています。また、天栄ホースパークはノーザンファーム天栄として、現在も競走馬の育成拠点として利用されています。

資生園早田牧場は、その華々しい成功と悲劇的な終焉を通して、競走馬生産業界の光と影を鮮やかに描き出したと言えるでしょう。その歴史は、日本の競馬界において長く語り継がれることでしょう。

主要参考文献

木村幸治『名馬牧場物語』（洋泉社、1998年）
『優駿』1992年2月号、1994年3月号、2014年9月号（日本中央競馬会）
* 『Sports Graphic Number』738号（文藝春秋）

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