賭博師 (ショスタコーヴィチ)

『賭博師』（とばくし、Игроки）作品63

ドミートリイ・ショスタコーヴィチが作曲を試みたオペラ作品。ニコライ・ゴーゴリの戯曲『賭博師』を原作としていますが、作曲は全25場中最初の8場分のみで中断され、未完に終わりました。作品番号は63です。

作曲の背景と過程

このオペラは、ゴーゴリの戯曲の台詞を一切変更せず、その全テクストをそのままオペラとして作曲するというユニークな試みとして開始されました。第二次世界大戦（大祖国戦争）中の混乱期、ショスタコーヴィチがクーイブィシェフに疎開していた1941年12月28日に作曲に着手されました。これは、同じく戦争の最中に書かれた大作、交響曲第7番『レニングラード』の最終楽章が完成した翌日のことでした。

作曲作業は1942年5月から6月にかけて集中的に進められ、その後も断続的に続けられていたようです。しかし、同年12月末頃、第8場の作曲途中で作業は中断され、以降再開されることなく、未完に終わりました。作曲が断念された理由としては、最初の8場だけで50分を超える、ほとんど切れ目のない長大な音楽となってしまったため、このペースで全25場を完成させるのは物理的・時間的に不可能であると作曲家自身が判断したためと考えられています。

補筆・完成版

ショスタコーヴィチによって作曲されたのは全体の約3分の1にあたる部分のみでしたが、彼の死後、親交のあったポーランド出身の作曲家クシシュトフ・メイエル（Krzysztof Meyer）が残されたスケッチなどをもとに補筆・完成させました。このメイエル補筆完成版は1983年に発表され、これによって初めて作品全体の上演が可能となりました。現在、この完成版を含め、複数の録音が存在しています。

作品の内容

物語は、旅先の宿屋で自らのカード賭博の腕前でひと稼ぎしようと企む主人公イーハレフが、そこで出会ったウチェシーチェリヌイ、シヴォーフネフ、クルーゲリといった詐欺師グループに逆に巧妙に騙され、財産を巻き上げられてしまうという、痛烈な人間喜劇を描いています。ゴーゴリの原作戯曲が持つ風刺的要素や人間の業が、音楽によって表現されています。

楽器編成

このオペラは、比較的規模の大きいオーケストラ編成で作曲されています。

管楽器：フルート3、オーボエ3、クラリネット4、ファゴット3
金管楽器：ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ1
打楽器：ティンパニ、トライアングル、タンブリン、シロフォン（Xylophone）、カスタネット（Castanets）、小太鼓、シンバル、大太鼓
その他：バラライカ、ハープ2、ピアノ
弦楽器：弦五部

特に、ロシアの民族楽器であるバラライカが編成に含まれている点が特徴的です。

演奏と上演

メイエル補筆完成版の全曲を演奏する場合、上演時間は約2時間15分とされています（休憩なしの場合の目安：第1幕約60分、第2幕約40分、第3幕約35分）。

また、ショスタコーヴィチが作曲した第8場までのみを演奏することも多く、その場合は前述の通り50分強の演奏時間となります。未完部分の上演に際しては、ショスタコーヴィチのもう一つの未完成の風刺作品であるカンタータ『ラヨーク』（ИгрокиはИгроки、ラヨークはАнтиформалистический раёк - 反形式主義的なラヨーク）を第1幕の後に組み合わせて上演される試みなども行われています。

参考文献

* 『ショスタコーヴィチ選集』モスクワ国立出版社（1986年）

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