赤いハイヒール

1976年6月に世に送り出された太田裕美さんの通算5枚目のシングル盤「赤いハイヒール」は、同年の音楽シーンにおいて大きな注目を集めた楽曲であり、彼女の音楽活動における重要な位置を占める作品です。

この楽曲は、先行リリースされ大ヒットを記録した「木綿のハンカチーフ」に続くシングルとして発表されました。その期待に応える形で、「赤いハイヒール」もまた商業的な成功を収めます。1976年のオリコン年間シングルチャートでは見事第13位にランクイン。太田裕美さん自身のシングル売上記録においても、「木綿のハンカチーフ」に次ぐ歴代2番目のヒットとなりました。さらに、音楽業界の販売実績を調査するミュージック・リサーチ社の発表によれば、この楽曲は100万枚以上のセールスを達成したことを示すミリオンセラーとして認定されています。

オリコン週間ランキングにおける最高位は、惜しくも首位には届かず2位でした。これは前作「木綿のハンカチーフ」と同じ最高順位です。当時、この楽曲の前に立ちはだかり週間チャートの1位を獲得していたのは、山口百恵さんの代表曲の一つである「横須賀ストーリー」でした。

「赤いハイヒール」は、日本のポピュラー音楽史に名を刻む優れたクリエイターたちの手によって生み出されました。作詞は、多くのアーティストに詞を提供し、文学的な深みを持つ言葉を紡ぎ出すことで知られる松本隆氏が担当。作曲は、生涯にわたって数え切れないほどのヒット曲を作曲し、「和製ポップスの魔術師」とも称された筒美京平氏が手がけました。この松本氏と筒美氏のコンビは、本作の完成度について極めて高い評価を与えていたと伝えられています。特に、彼らが「これ以上良い楽曲はもう書けないのではないか」と語ったというエピソードは、この楽曲が制作陣にとってどれほど特別なものであったかを物語っています。編曲は、情感豊かなサウンドメイキングで知られる萩田光雄氏が担当し、楽曲の世界観を見事に表現しています。

歌詞の世界には、当時の日本でも絶大な人気を誇ったフランスの映画スター、アラン・ドロンの名前が登場します。これは、歌詞に描かれる主人公の心情や、楽曲が持つ都会的でどこか感傷的な雰囲気を際立たせる要素となっています。萩田光雄氏による編曲は、哀愁を帯びた美しいメロディラインと、歌詞に込められた主人公の繊細な感情を見事に引き立てるサウンドを創り上げています。

後年のリリースとして、1999年に発売された太田裕美さんのデビュー25周年を記念したCD-BOXセット『太田裕美の軌跡』には、「赤いハイヒール」の別バージョンが収録されています。この別バージョンは、シングル盤に収録されたオリジナルバージョンと基本的な楽曲構成は同一ですが、歌詞の一部、特に3番の部分が異なっています。また、アレンジにおいても、オリジナルバージョンとは異なる楽器編成や演奏が用いられており、同じ楽曲でありながらも異なる雰囲気や解釈で楽しむことができる貴重な音源となっています。

シングル盤の収録曲構成は、レコードのA面に表題曲である「赤いハイヒール」が収められています。この楽曲の演奏時間は4分19秒です。B面、いわゆるカップリング曲としては「茶いろの鞄」が収録されており、こちらの演奏時間は4分54秒です。「茶いろの鞄」もまた、「赤いハイヒール」と同様に作詞を松本隆氏、作曲を筒美京平氏、編曲を萩田光雄氏が手掛けており、A面曲に劣らない魅力を持つ楽曲としてファンに親しまれています。

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