赤い刺青の男

『赤い刺青の男』（原題: The Man with the Red Tattoo）は、レイモンド・ベンソンが手掛けた007シリーズの最終小説です。この作品は、007シリーズにおける特異な舞台として日本が選ばれ、物語は東京からロンドンへのフライト中に発生する異常事態から始まります。

物語の発端は、日本とイギリスを結ぶ直行便のJAL機内で、若く美しい日英ハーフの女性が西ナイル熱に似た症状により急死するという悲劇です。同じ時期に、彼女の家族も東京近郊の自宅で同様の病にかかり、異常な死を遂げます。死体には蚊に刺された痕跡があり、詳細な調査が求められます。加えて、G8サミットが日本で開催されることから、暗殺を目的とした細菌テロの可能性が浮上します。

この事態を受け、英国情報局のMI6は、ジェームズ・ボンドを日本へ派遣し、事件の真相を解明しながら首相の警護に当たります。ボンドは過去の任務で記憶喪失を経験した日本に再度赴くことに躊躇しつつ、公安調査庁の幹部であり昔の任務で連携したタイガー田中と再会し、共に事件の謎に挑みます。

本書には1967年に公開された『007は二度死ぬ』へのオマージュが多く含まれていますが、残念ながら映画化は実現しませんでした。このシリーズはイアン・フレミングを基に36年以上にわたり続いており、その後継作家の作品が映画化された例はなく、またフレミングの原作もいつの間にか、脚本家による独自なアプローチがなされていきました。

作品の中では特に、北海道の登別市や香川県の直島町が実名で取り上げられており、その観光地としての魅力をアピールしています。特に直島は物語の中でG8サミットの開催地として描かれ、映画化実現への熱意が高まりました。香川県では、地域住民や映画愛好家からなる委員会が立ち上がり、署名活動を開始。目標としていた5万人の署名は、2004年11月には達成されました。さらに、登別市も協力し、二つの地域での署名は合計で8万4000人を超えました。

また、香川県では、映画化に向けたPR活動の一環として「香川のボンドガール」などイベントも開催され、招致活動が行われました。特に2008年には、イアン・フレミング生誕100周年を迎え、007第22作の撮影が日本で行われるのではないかという期待が高まっていましたが、最終的に会場は北海道の洞爺湖に決定されました。

作品の中での場面設定には、青函トンネルでのカーチェイスや、登別の温泉街でのスリリングな戦闘シーンがあります。また、直島ではボンドが敵の刺客と対峙し、様々なアクションが繰り広げられます。

さらに、直島町には『007「赤い刺青の男」記念館』が設立され、観光地としての一環を担っていました。ここでは作中の心臓を模したオブジェや様々な関連グッズが展示され、007ファンにとって貴重な体験が提供されていました。記念館は低予算で運営され、地域のボランティアの手によって運営されていましたが、残念ながら2017年に閉館となりました。

『赤い刺青の男』は、ジェームズ・ボンドの新しい冒険を描いた意義深い作品であり、映画および小説両方において、007ファンの心に深く刻まれる作品となっています。

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