赤子 (妖怪)

赤子 - 長野と大和、そして蕪村の描く異形の姿-

日本の妖怪「赤子」は、その姿や伝承が地域によって異なる興味深い存在です。長野県と大和国（現在の奈良県）、そして俳人・与謝蕪村の描いた妖怪絵巻『蕪村妖怪絵巻』に登場する「赤子」は、それぞれ異なる特徴を持ち、独自の物語を紡いでいます。本稿では、これらの伝承を詳細に解説し、妖怪「赤子」の多様な側面に迫ります。

長野県木崎湖の赤子

長野県大町市にある木崎湖、仁科三湖の一つに棲むとされる赤子は、人間の子供のような姿をしています。しかし、その外見は生後間もない赤ん坊のように赤く、髪は猩猩（しょうじょう）のような色をしていると伝えられています。年齢はおおよそ11歳から12歳くらいと推測されています。

湖に潜む赤子は、漁師によって目撃されることがあるものの、人間に危害を加えることはありません。その存在は、湖の神秘的な一面を象徴する存在と言えるでしょう。人々はその存在を恐れることなく、むしろ湖の守り神のような存在として認識しているのかもしれません。

大和国の赤子 - 化物屋敷の怪異-

明治時代に作成された妖怪絵巻『ばけもの絵巻』（作者不詳）には、「赤子の怪」として大和国の赤子の伝承が記されています。この伝承では、誰も近付かない「化物屋敷」と呼ばれる家が登場します。

ある剣術の達人が、その化物の正体を見極めようと屋敷に泊まりました。夜半、障子の向こうから奇妙な音が聞こえてきます。それは、まるで誰かが踊っているような音でした。障子を覗き見ると、そこには生まれたばかりの赤ん坊のような姿をしたものが踊っていました。そして、その数はどんどん増え続け、最終的には数百人にまで膨れ上がります。

剣術の達人は太刀を抜こうとしますが、不思議なことに手が震えて動きません。夜が明けるまで、赤子たちは踊り続け、そして夜明けとともに、まるで何もなかったかのように姿を消しました。この物語は、赤子の圧倒的な数と、それに対する人間の無力さを際立たせています。

蕪村妖怪絵巻の赤子 - 法師と数千の赤子-

『蕪村妖怪絵巻』にも「赤子の怪」と題された絵巻が残されています。ある法師が小笠原という座敷に宿泊した際に、隣室からけたたましい音が聞こえてきました。それは、多くの人間が踊っているような音でした。

法師が覗いてみると、そこには数千人もの裸の赤ん坊が踊り狂っていました。その騒がしさは想像を絶するものでした。しかし、夜が明けると、赤子たちは跡形もなく消え去っていました。

『ばけもの絵巻』と題名、内容ともに酷似していますが、両者の関連性は不明です。それぞれの伝承が独立して生まれたのか、それとも何らかの繋がりがあるのか、今後の研究が待たれます。

まとめ

長野県、大和国、そして蕪村の絵巻と、それぞれの伝承における「赤子」の姿や行動は様々です。しかし、共通して言えるのは、その不可解さ、そして人間の想像をはるかに超えた存在感です。これらの伝承は、古来より人々が抱いてきた、見えない存在への畏怖と好奇心を反映していると言えるでしょう。今後も、各地に残る「赤子」の伝承を探求し、その謎を解き明かしていくことが重要です。

もう一度検索