赤銅 (合金)

赤銅：深みのある黒色の秘密

赤銅は、銅に金が3～5%加えられた合金です。日本の伝統工芸、特に象嵌細工などで古くから用いられてきました。特徴的なのはその色合いで、黒に近い青紫がかった独特の色をしています。私たちが「赤銅色」と呼ぶ色は、まさにこの深みのある黒を指します。

黒色の発色のメカニズム：煮色仕上げ

この独特の色は、単に合金を混ぜ合わせただけでは得られません。「煮色仕上げ」と呼ばれる特殊な表面処理が不可欠です。この工程では、緑青（炭酸銅や酢酸銅）、丹礬（硫酸銅(II)5水和物）、明礬（硫酸カリウムアルミニウム12水和物）などを混ぜた液で赤銅を煮ます。この処理によって、表面に酸化被膜、つまり人工的な錆が形成され、独特の色合いが生まれます。

煮色仕上げによって、赤銅の表面には数μmの厚さの亜酸化銅の被膜が形成されます。この被膜の中に、5～10nmという非常に微細な金の粒子が分散しています。この金の微粒子が、入射光を多重反射しながら吸収・減光させることで、赤銅は黒く見えます。さらに、金を通過した光は青みを帯びます（青以外の波長の光を通さないため）。亜酸化銅自体は小豆色であるため、これらの色が混ざり合い、青みがかった黒色、つまり赤銅色が生まれるのです。

安定した保護被膜

この亜酸化銅の被膜は、大気中でも非常に安定しています。そのため、他の錆や緑青の発生を防ぐ役割も果たします。これは、鉄の刀の鐔（つば）に黒錆（四酸化三鉄）を付けることで赤錆（三酸化二鉄）を防ぐのと同様の原理です。黒錆は安定した保護被膜として機能し、内部の鉄を腐食から守ります。赤銅の亜酸化銅被膜も、同様に金属を保護する役割を担っていると言えるでしょう。

赤銅と似た合金：トゥンバガ

赤銅と似た合金にトゥンバガがあります。トゥンバガも金と銅の合金ですが、金の割合は赤銅とは異なり様々です。さらに、表面処理の方法も異なります。トゥンバガでは、酸処理によって銅を溶かし、金の層を表面に出すことで独特の輝きを得ます。この点で、赤銅の煮色仕上げとは異なるアプローチと言えるでしょう。

まとめ

赤銅は、その独特の色合いと高い耐久性から、古くから日本の伝統工芸に用いられてきました。その黒みがかった青紫の色は、金と銅の合金という素材と、煮色仕上げという特殊な表面処理の両方が織りなす奇跡と言えるでしょう。この深みのある色は、日本の伝統美を象徴するものの1つとして、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。

もう一度検索