車内エンターテインメント

車内エンターテインメント／車載インフォテインメント

車内エンターテインメント（ICE: in-car entertainment）または車載インフォテインメント（IVI: in-vehicle infotainment）とは、自動車のキャビン内に搭載されるハードウェアとソフトウェアを組み合わせたシステム全般を指します。その主な目的は、乗員にオーディオやビデオといった娯楽を提供することに加え、ナビゲーションなどの情報サービスを統合的に提供することにあります。

このシステムは、かつての自動車に搭載されていたカーラジオやカセットプレーヤー、CDプレーヤーといった単機能のカーオーディオシステムを起源として大きく発展しました。現在では、高度なカーナビゲーション、ビデオ再生機能、スマートフォンや外部メディアとのUSBやBluetooth接続、車内コンピューター機能、さらには車内でのインターネット接続やWi-Fi環境の提供など、その機能は飛躍的に多様化しています。

操作方法も進化しており、初期のモデルではダッシュボード上の物理的なスイッチやダイヤル操作が中心でしたが、現代のシステムではステアリングホイールに組み込まれたスイッチによる手元操作や、ドライバーの音声によるハンズフリー操作も可能となり、利便性が向上しています。

発展の背景

近年、自動車のコネクテッドカー化が進むにつれて、車内エンターテインメントシステムはますます高度化しています。この流れを支えているのは、自動車メーカーに加え、ハードウェアやソフトウェアを供給するメーカー、さらにはGoogleやAppleといった従来は自動車産業と直接的な関連が少なかったテクノロジー企業との連携です。これらの多様な主体が協力し合い、ユーザーにとって使いやすく、かつ安全に使用できるインフォテインメントシステムの開発を進めています。

一部の自動車メーカーは、自社独自のインフォテインメントシステムを開発・展開しています。具体例としては、フォードの「Ford Sync」および「MyFord Touch」、トヨタの「Entune」、キャデラックの「CUE (Cadillac User Experience)」、FCA（現ステランティス）の「Uconnect」などが挙げられます。

スマートフォンの爆発的な普及は、車内でのインターネット接続されたデバイス利用という新たな状況を生み出しました。2015年に米国で実施された調査では、回答者の多くが運転中にスマートフォンを使用しており、その用途にはソーシャルメディア、ウェブ閲覧、ビデオ通話などが含まれていました。こうした実態は、運転中の注意散漫（ながら運転）による安全上の懸念を強く提起し、自動車産業に対して、車内でのデバイス安全利用を可能にするシステムの提供を促すことになりました。

伝統的な自動車メーカーは、このような高度で複雑なシステムの設計・開発において、自動車部品サプライヤーやテクノロジー企業の持つソフトウェアおよびエレクトロニクスの専門知識への依存度を高めています。特に、GoogleとAppleが提供するモバイルオペレーティングシステムは、車載インフォテインメント市場において大きなシェアを占めています。これらの企業は、スマートフォンの操作画面や機能を車載ディスプレイに表示・操作可能にする「投影モード」（Android AutoやCarPlay）を開発しました。これにより、運転者は自身の使い慣れたインターフェースを、デバイス本体を直接操作することなく、前方の道路から大きく視線を外さずに利用できるようになりました。

安全性への懸念

運転中の携帯電話使用については多くの国や地域で法的な規制が設けられていますが、車載インフォテインメントシステム自体の操作に対する規制は、携帯電話ほどには進んでいないのが現状です。例えば米国では、運転中の携帯電話通話やテキストメッセージ送信を禁止する州が多くありますが、インフォテインメントシステムの使用を具体的に制限する法律を制定している州は限られています。

ながら運転の潜在的な危険性については、多くの研究が進められています。ある研究によれば、運転中にインフォテインメント画面に視線を向けるドライバーは、衝突事故を起こすリスクが著しく高まることが示されています。さらに、運転者が路面から視線を外す時間が長くなるほど、事故の危険性は飛躍的に高まることが指摘されており、インフォテインメントシステムの安全な操作インターフェースの設計が極めて重要となっています。

セキュリティへの懸念

車載インフォテインメントシステムが、CANバスなどの車内ネットワークを介して車両の様々な機能（ブレーキやステアリングなど、いわゆるドライブ・バイ・ワイヤ関連機能を含む）により深くアクセスできるようになるにつれて、外部からの不正アクセスやリモートハッキングに関する懸念も表明されています。システムのセキュリティ脆弱性が、車両の運行に悪影響を及ぼすリスクが指摘されており、高度なセキュリティ対策が求められています。

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