車掌スイッチ

車掌スイッチとは

車掌スイッチは、鉄道車両やバスにおいて、運転士や車掌といった乗務員が、お客様が乗り降りするためのドアを開閉するために使用する装置です。車両の安全な運行において、乗降に関わる重要な役割を担っています。

構造

このスイッチは、車両の乗務員室内に設置されています。古いタイプの車両に見られる直接制御式（ロッド式）は、本体を上下に貫く一本の棒（プッシュロッド）のような形状をしています。一方、比較的新しい間接制御式（リレー式）の車両では、一般的に上下に一つずつ押しボタンスイッチが配置されています。上側のボタンには「閉」、下側には「開」と表示されており、通常は下のボタンでドアを開け、上のボタンでドアを閉じます。ただし、近畿日本鉄道や高松琴平電気鉄道など、一部の事業者では開閉の表示位置が逆の場合もあります。

安全上の観点から、車掌スイッチは車掌などが携帯する専用の鍵を使って操作が可能になるようにロック（鎖錠）およびロック解除（鎖錠解除）を行うことができます。ロッド式のスイッチは、棒の動きによって回路の接続や切断を行う接点（ドーナツ形や角棒形）を備えており、これによりドアエンジンを制御してドアの開閉動作を実現しています。

乗務員扉のそばには、他の必要な機器とともに車掌スイッチが配置されています。例えば、西武6000系などに見られるユニットタイプでは、非常ブレーキスイッチ、乗降促進スイッチ、再開閉スイッチなどが上部に並び、その脇に一部締切スイッチ、下部に合図ブザーなどが配置され、さらにその下に車掌スイッチが設けられています。壁面には、走行表示灯や開扉している車両を示すモニタ表示灯なども設置されていることがあります。

操作と安全機能

列車が停車駅に近づくと、車掌は携帯する鍵で車掌スイッチのロックを解除します。列車が完全に停車した後、定められた停車位置であるか、操作するドアがホーム側であるかなど、お客様の安全な乗降に支障がないことを確認した上で、スイッチを操作してドアを開閉します。

鉄道車両のドアシステムには、戸閉め保安装置と呼ばれる安全機能が搭載されています。これは、列車が一定速度（例えば5km/h以上）で走行している間は、誤って車掌スイッチを操作してもドアが動作しないようにする仕組みです。車掌スイッチの近くには通常「走行中」または「走行」と書かれたランプがあり、このランプが点灯している間はスイッチ操作が無効となります。

また、戸閉め連動装置により、全てのドアが確実に閉まり、運転台の知らせ灯（パイロットランプ）が点灯しない限り、列車の主制御器による力行（加速）回路が構成されないようになっています。これにより、ドアが開いた状態や完全に閉まっていない状態での発車を防いでいます。

万が一、列車が「開」の状態で停車した場合の動作は車両によって異なります。あるタイプでは「走行中」ランプが点灯したままでドアは動作せず、一度スイッチを「閉」位置に戻すことでランプが消灯し、ドアの開閉が可能になります。別のタイプでは、「走行」ランプが消灯し、5km/h以下の速度であればドアが開くように設計されています。

戸閉め保安装置に故障が発生した場合に備え、この安全機構を一時的に開放するための「非常短絡スイッチ（戸閉め保安短絡スイッチ）」を備えた車両もあります。このスイッチを投入している間は、走行中でもドアを開閉することが可能になります。ただし、ドアが故障して一部のドアが閉じないまま走行する必要がある場合は、戸閉め連動装置を非連動状態とし、ドアの閉鎖状態に関わらず力行できるようにする措置が取られます。このような運用を行う際は、故障したドアに保安要員を配置するか、該当車両全体を立ち入り禁止にして前後の貫通扉を閉鎖するなど、厳重な安全対策が講じられます。

制御方式

古くから用いられている直接制御式では、列車が終着駅に到着し、進行方向を変える際に、運転士が後方車両の車掌スイッチを操作する場合があります。これは、編成内のどこか一カ所でも車掌スイッチが「開」の位置に残っていると、他のスイッチで「閉」操作を行っても全てのドアが閉まらない構造になっている車両があるためです。このため、始発駅を出発する前には、運転士による車掌スイッチの状態確認も行われています。

一方、間接制御式（リレー式）では、上下に独立した押しボタンを備えているため、折り返し時に上記のような運転士による確認・操作が不要となります。特にワンマン運転を行う路線では、折り返し作業の簡略化のためにこの方式を採用する車両が多く見られます。このような車両では、誤操作を防ぐ目的で、側壁方向にボタンが設置され、開扉には二つのボタンの同時操作が必要とし、閉扉は一つのボタンで可能とする設計も一般的です。

特殊な装備と関連システム

車掌スイッチには、ドア開閉用の棒（またはボタン）が一つだけのタイプと、二つ備わっているタイプがあります。二つある場合は「此ノ戸（このと）」・「他ノ戸（たのと）」、あるいは「此戸用」・「他戸用」と表示されます。これらはそれぞれ異なる範囲の扉を制御するためのスイッチで、その使い分けは事業者や車両、編成両数によって二通りの方式があります。最近では、スイッチが一つだけの車両が増えています。

一つ目の方式は、「此ノ戸」がスイッチの目の前にある当該乗務員扉やその隣接する客用扉一つを制御し、「他ノ戸」がそれ以外の全ての客用扉を制御する場合です。この方式は、車掌が車内改札などで乗務員室を離れた場所からドア扱いを行う際に活用されます。開扉時は、「此ノ戸」を先に操作して目の前の扉を開け、安全確認後に「他ノ戸」を操作して編成全体のドアを開きます。閉扉時は逆に、「他ノ戸」を先に操作して目の前のドアを残して編成全体のドアを閉じ、安全確認後に「此ノ戸」を操作して目の前の扉を閉じます。かつて半室式の運転台が一般的だった時代には、運転台がない側の乗務員室扉がない車両もあり、編成の後端でも同様の操作が行われていました。

二つ目の方式は、「此ノ戸」が自車の全ての客用扉を制御し、「他ノ戸」が他の車両の全ての客用扉を制御する場合です。この方式を採用している事業者の中には、ホームの有効長が短く、編成の一部（例えば一両分）がホームから外れて停車する場合に、はみ出した車両のドアを締め切りとするため、「他ノ戸」だけを操作して自車のドアのみを開閉するといった運用を行うこともあります。

海外、例えば台湾鉄路管理局や台湾高速鉄道などでは、乗客が利用する客用ドアの脇に車掌スイッチが設置されており、ここでドアの開閉操作が行われます。この場合も、上述の日本の事例と同様に、スイッチによって制御されるドアの範囲が異なる方式が採用されています。台湾鉄路管理局の車両では、車掌が携帯する鍵でスイッチのロックを解除すると、まず目の前の扉が開きます。安全確認後、「開」ボタンを押すことで編成全体のドアが開きます。閉扉時は、「閉」ボタンを押すと目の前のドアを残して編成全体のドアが閉じ、安全確認後に鍵を外してロックすることで目の前の扉が閉まる手順となっています。

また、一部の車両では、各扉を個別に操作できる扉個別スイッチが設けられており、これに対応するため車掌スイッチも専用のものが使用されることがあります。通常の「入」「切」に加え、扉個別操作機能を有効にするための専用の鍵ポジションがあるタイプが主流で、通常の「入」にあたる位置は「自動」、個別操作機能用は「半自動」と表記されることが多いですが、通常の車掌スイッチに切り換えスイッチを併設している事業者もあります。

列車の運転を行うにあたっては、編成における車両の前後方向を認識させる必要があります。これにより、例えば車掌スイッチは編成の後部車両側でのみ操作可能となるようにすることが多く行われます。この切換えは、運転台にある「方向切換器」という装置で行われ、「前・中・後」といった位置があります。通常の運転時は、進行方向側の車両を「前」、後部側の車両を「後」に設定することで、各機器の機能が切り替わります。この装置は、鉄道事業者によっては「運転切換スイッチ」や「戸閉切換（とへいきりかえ）スイッチ」、「前後切換スイッチ」などと呼ばれることもあります。

ワンマン運転を行う路線では、折り返し時に方向切換器を操作する手間を省き、誤操作のリスクを低減するため、運転台に挿入されたマスコンキーの側を自動的に「前」方向として認識させる仕組みが採用されることがあります。このための装置として、「戸閉制御切換装置（とへいせいぎょきりかえそうち）」が両先頭車の床下などに搭載されます。この装置は、上述の前後方向認識機能に加え、ワンマン・ツーマン運転の切り換え操作に応じて、運転台にある戸閉手元スイッチや側部の車掌スイッチの操作を制限する機能も有しています。さらに、ATO（自動列車運転装置）の送受信装置と連携し、ホームドアと車両ドアの開閉を連動して制御する機能を持つタイプもあります。この戸閉制御切換装置は、方向切換器を省略できる可能性があることから、ツーマン運転を行う路線でも導入されている場合があります。

なお、事業者や路線、車両形式によっては、編成の中間に運転台がある車両や先頭の車両であっても、車掌がドア開閉操作を行えるようにしている場合があります。特急列車などで車内改札を行う際、進行方向に対して前から後ろへ、お客様と対面で対応することを重視する事業者では、始発駅でのドア開閉を先頭の運転室から車掌が行う例も見られます。また、ホーム長が短く、上下列車ともに同じ側（踏切がない側など）に編成の一部（例えば一両分）がはみ出して停車する場合に、先頭側がはみ出すケースでは、運転士が「他ノ戸」スイッチを操作してはみ出した車両のドアを締め切る運用を行う事業者もあります。

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