軌道姿勢制御システム

ジェミニ宇宙船に搭載されていた軌道姿勢制御システム（OAMS: Orbit attitude and maneuvering system）は、地球軌道上での宇宙船の運用において不可欠な役割を担った推進システムです。このシステムは、宇宙船の姿勢を正確に維持・変更すること、そして軌道の微調整や変更を行うことを主な目的としていました。ジェミニ計画のような、ランデブーやドッキングといった複雑な軌道上での操作を伴うミッションにとって、OAMSのような精確な制御システムは成功の鍵を握っていました。

OAMSは、合計で16基の小型ロケットエンジン、すなわちスラスターから構成されていました。これらのスラスターは、宇宙船の周囲の様々な方向に固定されており、それぞれの噴射によって発生する推力を用いて機体の運動を制御します。単純な姿勢の修正から、より大規模な軌道変更まで、幅広い操作を可能とするために、これらのスラスターは配置されていました。

このシステムで使用された推進剤には、ヒドラジンと四酸化二窒素が用いられていました。これらは「ハイパーゴリック推進剤」と呼ばれる種類に分類されます。その最大の特徴は、二つの液体が接触するだけで自己的に燃焼を開始するという点にあります。この性質により、別途点火装置を必要とせず、バルブを開くだけで瞬時に推力を発生させることが可能でした。これは、宇宙空間での信頼性の高い、迅速なスラスターの作動を実現する上で大きな利点となりました。

搭載された16基のスラスターは、発生させる推力の大きさによって二つのグループに分けられていました。一方は比較的大きな推力を持つ8基で、当初は各々約45kg（100ポンド）の推力を発生させました。もう一方は、より繊細な姿勢制御に適した推力を持つ8基で、こちらは各々約11kg（25ポンド）の推力を持っていました。これらのスラスターを状況に応じて使い分けることで、宇宙船の機体を前後左右、上下に傾ける（ピッチ、ヨー、ロール）といった姿勢制御や、目標とする軌道への移動、速度の変更などが実行されました。ただし、設計段階における調整の結果として、約45kgのスラスターのうち2基については、1962年の時点で最大推力が約38kg（85ポンド）へと引き下げられています。

OAMSは、ジェミニ計画の成功に貢献した重要な技術要素でしたが、同時に予期せぬ事態を引き起こす可能性も秘めていました。その一例が、1966年3月に行われたジェミニ8号のミッションです。このミッションでは、人類初の宇宙空間でのドッキングに成功した後、OAMSの1基のスラスターが異常を起こし、継続的に噴射を続ける状態に陥りました。これにより、ドッキングしていたアジェナ標的機を分離した後、ジェミニ宇宙船は制御不能な高速回転を開始しました。乗組員であるニール・アームストロング船長とデイヴィッド・スコット飛行士は、OAMSによる制御回復を試みましたが叶わず、最終的には再突入制御システム（RCS）を使用して機体の回転を停止させるという緊急対応を行いました。このOAMSの故障により、ミッションの残りの大部分が中止され、宇宙船は当初の予定よりも遥かに早い段階で地球に帰還することを余儀なくされました。このジェミニ8号の事例は、軌道姿勢制御システムの信頼性と、その異常がミッションにもたらす深刻な影響を浮き彫りにする出来事となりました。

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