軍人と国家

『軍人と国家』の概要と意義

サミュエル・P・ハンチントンの著作『軍人と国家』（The Soldier and the State）は、1957年に発表され、政軍関係についての重要な理論を提供したことで知られています。本書の中心的テーマは、軍隊のプロフェッショナリズムとその国家との関係です。ハンチントンは、アメリカの政軍関係の根本的問題を考察し、特に軍の専門性と国民との関係性に焦点を当てています。

ハンチントンの背景

ハンチントンは1927年に生まれ、イェール大学とハーバード大学で学びました。ハーバード大学の国際問題研究センターの教授としても著名であり、カーター政権下で国家安全保障会議のメンバーとして国防政策の立案にも参加していました。この経験を背景に書かれた本書は、政軍関係を理解する上での基本的な枠組みを提供しました。

内容の構成

本書は三部構成になっており、第一部では軍事制度と国家に関する理論的・歴史的考察が示されています。ここでは軍隊のプロフェッショナリズムがどう形成されるか、また近代軍隊の文民統制の重要性などについて議論されています。第二部では、アメリカにおける軍事力の歴史的経験を1789年から1940年までの範囲にわたり詳述しており、特に南北戦争以前のアメリカ軍の伝統や第一次・第二次世界大戦における政軍関係の変化を中心に語られています。最後に第三部では、1940年以降のアメリカにおける政軍関係の危機を論じ、特に冷戦とその影響についても触れています。

プロフェッショナリズムの概念

本書の鍵となる概念は「プロフェッショナリズム」です。ハンチントンによると、将校団は専門職としての倫理、責任、および統一性を持つべき存在であり、その専門性は「暴力の管理」という観点から定義されます。具体的には、軍事力の構築、作戦の計画、戦闘の指揮など、軍人の役割が高度化しており、これには歴史的、社会科学的背景を解釈する知識も求められます。

文民統制とその形態

ハンチントンはまた、文民統制の重要性にも言及しています。文民統制は、軍が政治的権力に対してどう位置づけられるかを示す概念で、「主体的文民統制」と「客体的文民統制」の二つの形態があります。主体的文民統制は文民の権力を最大化し、客体的文民統制は軍の専門性を高めて政治権力を最小化することを目的としています。この二つは、軍に対する権力関係の管理において重要な役割を果たします。

アメリカの政軍関係

アメリカの政軍関係は、自由主義的な文化と深く結びついています。18世紀のアメリカでは、軍の存在が共和制と人民の自由に対する脅威と見なされたため、軍の規模は縮小されました。そのため、文民統制の理念は普及しているものの、憲法上の規定が不十分なままで存在していました。新しい国防のあり方は、文民と軍との関係をどう構築するかが大きな課題となりました。

第二次世界大戦後の変化

第二次世界大戦を経て、アメリカの政軍関係は大きく変わりました。戦時中、軍部は文民政府と密接に連携しのつつも、戦後の文民統制に対する認識が問われるようになりました。冷戦期における朝鮮戦争では、再び軍と文民の緊張関係が強まります。ハンチントンはこのような変化を通して、自由主義の価値観と現実の軍事的必要性の間の葛藤を指摘し、必ずしも容易な状況でないことを示しました。

評価と批判

ハンチントンの理論は多くの批判にさらされました。特にプロフェッショナリズムが軍人の政治的介入を減らすという主張には疑問の声もあります。歴史的に、軍人が政治に介入した例もあり、その説明には限界があるという指摘がされています。このように『軍人と国家』は、単なる理論書にとどまらず、政治と軍事の関係を深く考察した重要な文献として位置づけられています。

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