軍服 (イギリス)

イギリスの軍服

イギリス軍の軍服は、その歴史とデザインにおいて、世界各国の軍隊や民間ファッションに大きな影響を与えてきました。本記事では、イギリス陸軍を中心に、海軍、空軍の軍服の変遷と特徴、そしてその影響について解説します。

概要

1760年代に始まった産業革命は、イギリスの織物工業を飛躍的に発展させ、服飾において大きな影響力を持つようになりました。特に男性の服装は、当時のヨーロッパ文化の中心であったフランスが英国風を取り入れたことで、世界的な流行を牽引しました。

英国貴族の乗馬服であるフロックは、1780年代には男性の標準的な服装として普及し、フランスの宮廷や軍服にも採用されました。フランス革命後には、ナポレオンの大陸軍でもフロックが標準的な軍服となり、イギリスにも逆輸入され、陸軍では1850年代まで、海軍では第二次世界大戦後まで正装として使用されました。

19世紀のイギリスは、産業革命とナポレオン戦争の勝利により、海軍力の優位性を背景に「パックス・ブリタニカ」と呼ばれる覇権を確立しました。ヴィクトリア女王の時代には、イギリス宮廷が欧米社会の模範となり、服飾の分野でも世界をリードしました。アルバート公やアルバート・エドワード皇太子（後のエドワード7世）は、欧米社会のファッションリーダーとなり、男性服飾史において「アルバート公の時代」と呼ばれる時代を築きました。

アルバート公は、プロイセン軍の略装であったフロックコートを男性の昼間用正装として導入しました。現在でもフロックコートは「プリンス・アルバート・コート」と呼ばれることがあります。軍服に関しても、ドイツ風の重騎兵用ヘルメットは「アルバートヘルメット」、シャコー帽は「アルバートシャコー」と名付けられました。

背広や結び下げ式のネクタイなど、現在でも世界中で使用されている様々な男性用服飾品がイギリスから生まれ、19世紀以降の軍服にも影響を与えました。イギリスで発展した軍服は、世界中の軍隊に影響を及ぼし、陸軍の軍服にはドイツ風の質素なデザインが取り入れられました。1871年の普仏戦争でプロイセンが勝利すると、その軍事制度が世界的に注目され、ドイツ風の軍服が正装用として扱われるようになりました。

海外植民地を維持するために、インド、アフリカ、香港、東南アジアなど世界各地に大英帝国の軍隊が派遣され、熱帯・亜熱帯地域や砂漠地帯などの温暖な気候の土地で得られた戦訓から、防暑用のピスヘルメットやカーキ色の軍服が多くの国で採用されました。第二次世界大戦後に独立した旧植民地では、陸軍、空軍、警察を含め、訓練法や制服のデザインにイギリスの強い影響が残っています。

パックス・ブリタニカを支えた海軍の制度は各国の模範となり、今日の海軍でイギリス海軍が確立した基本パターンを直接・間接的に引き継いでいない国は皆無と言ってよいでしょう。ブレザーやセーラー服も19世紀のイギリスで生まれ、その影響は沿岸警備組織や商船、民間航空機のパイロットの制服にも及んでいます。

セーラー服、ブレザー、ピーコート、トレンチコート、ピスヘルメットなど、イギリス軍の軍服から一般社会に広まった服装は数多く、現在でも世界中で広く使われています。カーディガンやダッフルコートも、軍隊での使用が少ないながらも民間で広く普及しています。

陸軍軍服の変遷

イギリス陸軍の組織は、清教徒革命後の王政復古期にチャールズ2世によって確立されました。当時、連隊ごとに異なる制服が着用され始め、17世紀末頃から歩兵の上着の色が国ごとに統一されるようになりました。イギリス歩兵は赤色の上着を着用するようになり、フランスは青、プロイセンは紺青色、オーストリアは白、ロシアはオリーブグリーン、バイエルンは水色を採用しました。

イギリス陸軍の軍服の変遷の特徴は、戦訓や一般社会の変化に応じて新しい服装が導入されても、古い服装が残され、種類が増えていくことです。19世紀後半の軍服が正装、同じく19世紀後半の常装・略装が礼装、20世紀前半の戦闘服が常装として残っています。そのため、現在の服装規定では、服装の種類が他国に比べて多くなっています。

海軍、空軍の軍服

海軍の軍服は、パックス・ブリタニカを支えた制度とともに各国の模範となり、ブレザーやセーラー服など、今日の世界の海軍で標準的な軍服が19世紀のイギリスで生まれました。

空軍の軍服も、陸軍や海軍の影響を受けながら、独自の進化を遂げています。

各国への影響

イギリス軍の軍服は、そのデザインや機能性において、世界各国の軍隊に大きな影響を与えました。特に、カーキ色の軍服やピスヘルメットは、熱帯地域で使用される軍服の標準となり、多くの国で採用されました。

軍服以外への影響

イギリス軍の軍服から一般に普及した服装は、セーラー服やトレンチコートなど数多くあります。また、イギリス発祥の救世軍の制服は、イギリス軍の軍服を模しています。

ネクタイの斜めストライプを連隊ごとに異なる色とする習慣は、イギリス軍で17世紀ごろから始まりました。このため、斜めストライプ柄は「レジメンタル」と呼ばれるようになり、イギリスの名門大学でも大学ごとに異なるレジメンタル・タイが制定されるようになりました。

イギリスの軍服は、単なる軍人の制服としてだけでなく、ファッションや文化にも大きな影響を与え、世界中で愛されるスタイルを生み出してきました。

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