軒付け

軒付け (のきづけ) について

「軒付け」は上方落語の魅力溢れる演目で、浄瑠璃を愛する一人の男が主役のストーリーです。彼は浚いの会で「忠臣蔵」の四段目を語ったものの、大失敗に終わります。その後、知人から「軒付けをしたら良い」とのアドバイスを受け、浄瑠璃の修行に挑むことになります。

あらすじ

軒付けとは、浄瑠璃の愛好者が自宅の軒先で一段を語る伝統行事で、もちろん本を見ながらではなく、下手であれば「お通り」と追い返されるという厳しい試練です。しかし、これには技術を磨く機会や、気に入られた場合は温かいもてなしを受ける特典もあるのです。実際に、彼は以前に浄瑠璃を披露した際に、鰻の茶漬けをふるまわれた経験を持っています。

男は紹介状を手に、集合場所へ向いますが、三味線の伴奏者である天さんが現れず、代役をお願いすることになります。代役には素人の紙屑屋の天さんが用意され、実際には三つの音しか弾けないというお粗末さ。このため、男と仲間たちは思わず愚痴を漏らしますが、何とかして舞台に上がることを決意します。

しかし、次々と行く家での厳しい現実が待っています。ある家では病人がいると断られ、他の家では乱暴者と思われひどい暴言を浴びます。男は諦めずに語るも、聴衆からはまともに聞いてもらえず、混乱した会話が続きます。最後には、「貸家」の札がかけられ、そこの家からも拒絶されます。

さらに続く修行

絶望的な状況の中、男たちは長屋の糊屋の婆さんの家で練習することに決めます。婆さんは耳が遠いため、気にせず語れると期待しての試みでしたが、案の定、天さんの三味線の腕前が悪いため、展開は無茶苦茶に。婆さんは浄瑠璃を「上手」と褒めますが、皆は耳が遠いながらも味が変わらないと言い争い始めるという滑稽な展開です。

この話のサゲは「下手な浄瑠璃で味噌が腐る」という言葉から来ていますが、現代ではあまり使われなくなっています。ただし、初めに浄瑠璃好きを自認する男が家族からその悪口を言われることで、観客にも違和感を与え、笑いを引き起こす工夫が凝らされています。

歴史と背景

「軒付け」は、江戸や上方で盛んに行われていた浄瑠璃という伝統芸能の一部で、アマチュアたちが技術を磨くための修行の場でもありました。戦後には、橘ノ圓都から三代目桂米朝、二代目桂枝雀、桂文珍といった落語家によっても演じられるようになりました。今日でも筋のユーモアや登場人物のやりとりの軽快さから、通じる楽しさが伝わるネタとして愛されています。

ただし、浄瑠璃の演じ方には多くの伝承があり、1890年代まで京阪地方で続けられたイベントだったことが記録されています。浄瑠璃が庶民に親しまれる様子は、同時に金銭目的の乞食行為とも関連しており、歴史的には官憲からの取り締まりも受けましたが、市民活動として根強く続いていた実態が伺えます。

このように「軒付け」は、ただの演目以上に、浄瑠璃文化の奥深さを伝える重要な作品なのです。

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