転宅

「転宅」について

「転宅」という古典落語は、滑稽でありながらも人間の心理の巧妙さを描いたお話です。別名「義太夫語り」とも呼ばれるこの演目は、さる豪商の妾宅で繰り広げられる泥棒と妾のコミカルなやりとりを中心に展開します。物語のキーワードである「転宅」は、単に引越しを意味するだけではなく、物語の流れにおいて重要な要素です。

物語のあらすじ

物語は、一人の男が豪商の妾・お梅のもとに忍び込むところから始まります。この妾は、旦那から大金を預けられていて、そのお金を狙った泥棒が入ってきたわけですが、彼はどうも間抜けです。膳の残り物を見つけると、なんとも呑気に食べ始めてしまうのです。

当然ながら、ここでお梅に見つかりますが、彼女は慌てる様子もなく、むしろ平然とした態度で男に接します。彼女は実は泥棒の仲間であり、旦那を騙して金目のものを奪う計画を持っていたことを告白します。お梅は、良い機会だから一緒に逃げようと提案するのですが、泥棒は彼女の魅力にすっかり心を奪われてしまいます。なんと、彼は今夜はここに泊まろうとまで言い出します。

そんな泥棒を見て、お梅は2階に旦那の友人たちがいると告げて彼を退散させるよう導きます。そして、泥棒から財布を奪い、明日の合図として家の外に置くタライを片付けることを約束させ、翌日の再会を待つことになりました。

引越しの真相

翌日、泥棒は約束通りにお梅の元へやってきます。しかし、家の外にはタライがそのまま残っています。彼は仕方なく近所を徘徊し、その様子を伺いますが、タライが片付けられる気配はありません。そこで、泥棒はお梅の親戚を名乗り、周囲の人々から話を聞こうとします。

すると近所の者は、昨夜の出来事を面白おかしく語り始めます。その内容は、賢いお梅が間抜けな泥棒を追い返したというものでした。泥棒は自分が詐欺にあったことにまったく気づかず、無邪気に聞いていると、ふと思い添えられた言葉に耳を傾けます。本当に泥棒が戻ってきた際には、お梅は恐れを感じて早朝に引っ越してしまったと教えられました。

この言葉を聞いた泥棒は、なんと「転宅（洗濯）？ だからタライが残っていたのか」と言い出します。彼は意外な結末に戸惑いながら、自己の詐欺に気がつかなかったのでした。

バリエーションと展開

「転宅」のストーリーにはいくつかのバリエーションがあります。例えば、泥棒とお梅の設定が逆転して、実はお梅が巧妙な泥棒である場合もあります。この場合、彼女は泥棒に結婚の約束をし、現在の旦那との決着を図る会話をするため明日呼び寄せるという展開があります。最終的に泥棒が騙されたことに気づく際のセリフも様々で、時には「義太夫の旅回りだそうで」と言い換えることもあります。特にこのバリエーションでは、合図がタライではなく、三味線の音になるのが特徴的です。

このように「転宅」は、人物同士の駆け引きと巧妙な設定が織り交ぜられた物語であり、落語の特長を生かした一幕として多くの人々に親しまれてきました。

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