転校生 (映画)

『転校生』：尾道と青春の奇跡

1982年、大林宣彦監督によって世に送り出された映画『転校生』。この作品は、山中恒の児童文学『おれがあいつであいつがおれで』を映画化したもので、のどかな港町・広島県尾道を舞台に、心と体が入れ替わってしまった男女の中学生の青春模様を繊細かつ鮮やかに描き出しています。主演は、当時まだ無名だった尾美としのりと小林聡美。二人の瑞々しい演技が、この映画に独特の輝きを与えています。

物語は、クラスの人気者である斉藤一夫と、転校生として現れた幼馴染の斉藤一美の、ある出来事から始まる奇妙な展開を描いています。思春期の微妙な感情、友情、そして恋心を、身体の入れ替わりという非現実的な設定を通して、リアルに、そしてユーモラスに表現しています。

一夫と一美は、学校の帰り道、何気ないハプニングから体と心が入れ替わってしまいます。当初は戸惑いながらも、互いの生活に適応しようと努力する二人。しかし、当然のことながら、男の子が女の子として、女の子が男の子として生活することの困難さは想像をはるかに超えるものでした。

そんな中、一美の昔のボーイフレンドである山本弘が現れ、二人の関係に新たな波紋を広げます。一夫（一美の心）の女の子らしい演技は、徐々に本性を現し始め、一美（一夫の心）は葛藤と涙に暮れます。しかし、弘は二人の間の特別な絆を感じ取り、温かい励ましとともに故郷へと帰って行きます。

そして物語は、一夫の転勤という、別れを告げるクライマックスへと向かいます。入れ替わったまま、離れ離れになるのかという絶望感。家出した二人ですが、やがて異性としてお互いを理解し、深まる絆を描写します。そして、運命のいたずらのように、再び転げ落ちた階段の上で、二人は元の姿に戻るのでした。

製作秘話：奇跡の誕生

『転校生』の誕生には、数々の困難がつきまとっていました。脚本家・剣持亘が原作に感銘を受け、映画化の企画が持ち上がったものの、当初の出資者であったサンリオが「ハレンチ学園みたいだ」と出資を撤回する事態に。制作費の調達は、大林監督にとって大きな試練となりました。

大林監督は、自身の故郷である尾道を舞台に、地元の人々の協力を得て撮影を進めます。予算不足の中、スタッフたちは創意工夫を凝らし、クラシック音楽を映画音楽に活用したり、大林監督自身の中学・高校時代の学生服を使用したりと、様々な工夫が凝らされています。撮影場所となった尾道の町並みは、観光地として整備された場所ではなく、古びた路地裏や民家など、尾道のリアルな姿がそのまま映し出されています。

主演の尾美としのりと小林聡美も、この作品がほぼデビュー作であり、二人の演技は、映画全体を支える重要な要素となっています。特に小林聡美の、女の子として生きることへの戸惑いと葛藤を表現した演技は圧巻です。

映画史に残る名作

『転校生』は、公開当時から高い評価を受け、日本テレビの「水曜ロードショー」での放映も高視聴率を記録しました。大林宣彦監督の代表作の一つとして、日本の青春映画史に名を刻む作品となりました。

また、『時をかける少女』『さびしんぼう』と共に「尾道三部作」と呼ばれ、尾道観光にも貢献しました。そして、この作品は、地方ロケによる映画製作という手法の先駆けとなり、後のフィルム・コミッション設立にも繋がった、重要な作品となりました。

男女入れ替わりという演出

『転校生』における、男女の入れ替わりという演出は、それまでの映画作品には見られない斬新なものでした。この演出は、二人の俳優の素晴らしい演技によって、非現実的な設定を現実味のあるものへと昇華させています。

そして、この映画のラストシーンで、一夫と一美が互いに別れの言葉を交わすシーンは、多くの観客の心に深く刻まれています。「さよなら、オレ」「さよなら、あたし！」。このシンプルながらも重みのあるセリフは、二人の間の絆と、過ぎ去る青春の切なさを象徴しています。

『転校生』は、奇想天外な設定と、それを支える俳優たちの繊細な演技、そして尾道の美しい風景が調和した、日本の映画史に残る名作です。

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