輿水実

輿水 実（こしみず みのる）は、1906年（明治39年）9月に山梨県に生まれ、1986年（昭和61年）3月5日に永眠した日本の国語学者および国語教育学者です。

東京帝国大学文学部哲学科で高度な学問を修め、1931年（昭和6年）に卒業しました。教育者としてのキャリアをスタートさせ、三重師範学校で教授を務めました。その後、1941年（昭和16年）には青年文化協会の東南アジア学院教授として活躍の場を広げます。戦後、国立国語研究所に入所し、第二研究部長として国語研究の重責を担いました。その功績は高く評価され、後に同研究所の名誉所員の称号を得ています。さらに、国語教育研究所の所長としても国語教育の発展に尽力しました。

輿水実は、その学術的な基盤を活かし、極めて広範な分野で研究活動を行いました。初期には、言葉の意義や解釈に関する哲学的考察を深め、『解釈学と意義学』や『言語哲学』といった著作を世に送り出しました。これらの理論的な探求は、国語教育との関連性へと展開され、『国語教育理論』などの著作に見られます。また、言語を用いた表現の仕組みを探求する表現学についても、『表現学序説』といった形で研究を進めました。

戦後、日本の国語教育が新たな段階を迎える中で、輿水実は理論だけでなく実践的な側面に深く関与するようになります。小学校の読本解釈法に関する研究から始まり、『日本語教授法』といった具体的な教授法に関する著作、さらには『言葉は伸びる 国語教育革新のために』のような教育現場に向けた啓蒙書まで、その関心は多岐にわたりました。国語科教育の体系化を目指し、『国語科概論』や『国語科教育法』といった基本書を著し、多くの教育者に影響を与えました。

学習指導の方法論についても独自の視点を持ち、『読み方教育学』では読解力の育成法を掘り下げ、また『国語スキルのプログラム学習』といった形で、基礎的なスキル習得のための具体的な学習プログラムを提案しました。現代的なテーマにも早くから目を向け、『国語科の情報処理能力』に関する著作は、情報化社会における国語教育の役割を考察するものでした。教育現場で共通理解を図るための『国語教育用語辞典』や『国語科基本用語辞典』の編纂も行い、研究・教育活動の基盤整備にも貢献しました。

輿水実の業績は、個人の研究・執筆に留まらず、共同研究や編集活動にもその特徴が見られます。国語教育界の重鎮として、多くの研究者や教育者と協力し、膨大な数の編著書を刊行しました。これらの出版物には、『国語指導法事典』や『新国語科指導法事典』といった実践的な指導法の集大成、あるいは『明治図書講座国語指導法体系』、『国語科学力診断指導法体系』といった体系的な講座シリーズが含まれます。特定のテーマに焦点を当てた講座や、学習指導要領に準拠した指導案・教材研究に関する編著も多数手がけ、国語教育研究の成果を広く共有し、教育現場の質の向上に大きく寄与しました。国語教育者研究集会の記録編纂にも携わり、研究交流の促進にも努めました。

その学問と教育界への貢献は、後世の研究者や教育者に多大な影響を与えました。輿水実の還暦を記念した論集や、没後に刊行された追悼集は、彼の人柄、学問、業績がいかに多くの人々に尊敬されていたかを示しています。長男の輿水優氏もまた、中国語学の分野で研究者として活躍しています。輿水実の代表的な著作は、『輿水実国語科の基礎・基本著作集』としてまとめられ、その学問的遺産は今も読み継がれています。言語哲学に根差した深い洞察と、国語教育の実践への強い関心とを結びつけ、戦後日本の国語教育の発展に生涯を捧げた人物として、その名は語り継がれています。

もう一度検索