辟邪絵

辟邪絵について

辟邪絵（へきじゃえ）は、中国に起源を持ち、古代から信仰されてきた疫鬼を懲らしめ、退散させる善神を描いた絵画の一種です。特に、日本においては奈良国立博物館に所蔵されている12世紀頃に制作された絵巻物が国宝に指定されています。この絵巻物は、疫病や悪影響を及ぼす存在に対抗する神々の姿を集中的に表現しています。

奈良国立博物館の辟邪絵

奈良国立博物館が展示する辟邪絵の一つは、13世紀に制作された絵巻物ですが、その制作時期や背景、正確な状況については明確にはわかっていません。ただし、後白河法皇の蓮華王院の宝蔵にあった「六道絵」の一部であると考えられており、現存している「地獄草紙」や「餓鬼草紙」、「病草紙」といった作品群に関連があると推測されています。このような作品群は特に、平安時代から鎌倉時代にかけての宗教的、文化的背景を知る上で貴重な資料となります。

辟邪絵の特徴

この絵巻物は、かつて実業家で茶人の益田孝（益田鈍翁）が所蔵していたため、「地獄草紙益田家乙本」と名付けられました。同じく益田家に保管されていたもう一つの作品「沙門地獄草紙」とは異なり、「地獄草紙甲本」と「地獄草紙乙本」という名称で区別されています。しかし、特筆すべきは、この絵巻が描いているのが人間の地獄の情景ではなく、疫病や害悪の元である疫鬼を退治する善神である点です。このため、国宝としての正式名称は「辟邪絵」とされています。

描かれている神々

辟邪絵には、天刑星、栴檀乾闥婆、神虫、鍾馗、毘沙門天王といった様々な辟邪神が登場し、それぞれの神々の特徴や働きを説明する詞書と共に描かれています。かつては一つの絵巻であったものの、戦後には切断され、現在は五幅の掛幅装となっています。この絵に関する他の資料としては、東京国立博物館に所蔵されている『地獄草紙』や、福岡市美術館の『勘当の鬼図』といった作品があり、これらの詞書が同じ筆によるものであるという説も存在します。

参考文献

この辟邪絵や関連する資料については、以下の文献や展覧会が参考になります。

• - 『週刊朝日百科 日本の国宝』49号、朝日新聞社、1998年
• - 「新指定の文化財」『月刊文化財』261号、第一法規、1985年
• - 特別展図録『鈍翁の眼 益田鈍翁の美の世界』、五島美術館、1998年の68ページから69ページにかけて。

特に、奈良国立博物館が所蔵する辟邪絵は、日本の美術や宗教文化、また歴史的背景に大きな影響を与える重要な文化財であり、今後も研究の対象として注目され続けるでしょう。

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