農本主義

農本主義について

農本主義（のうほんしゅぎ）は、第二次世界大戦前の日本で展開された思想で、農業を国家の基盤と見なすことが特徴的です。この運動は「農は国の本（基）」（のうはくにのもと）という言葉に端的に表され、国家の発展は農業の発展によって支えられるべきであるという主張がなされました。

農本主義の背景

農本主義は、近世における農本思想から発展したものであり、特に江戸時代の幕藩体制においては、農業と農民の重視が求められました。しかし、明治維新以降の急速な工業化と産業革命により、農村社会は疲弊し、農業の衰退が促進されました。このような時代背景の中、農業と農村を守るための思想として、農本主義が成立しました。これにより、近代特有の条件を反映した思想運動としての性格が強調されます。

歴史的発展

農本主義の歴史は、主に2つの時期に分けられます。最初の時期は明治から大正までの前期です。この時期、明治政府は富国強兵や殖産興業を目指すものの、農民層の疲弊が進みました。特に松方デフレ財政は、農業に依存する農民の生活を困難にしました。これに対抗する形で、官僚や農学者の間から農業と農村の保護を訴える声が上がりました。

後期に入ると、大正後期から昭和戦前期にかけての第一次世界大戦後、特に1920年代の農村恐慌が農本主義に新たな展開をもたらしました。この期間には、体制批判的な新しい農本主義が登場し、特に軍部内の青年将校たちによる影響が大きくなりました。彼らは、農民の活動を国の政策として動員し、後の二・二六事件に至るまでの思想形成に寄与しました。

意義と評価

農本主義の評価に関しては多様な視点があり、1930年代に桜井武雄がその考察を行いました。彼は農本主義がどのように権力によって利用されたのかに注目しました。その後の時代、農本主義に対する問いかけが続き、安達生恒や山本堯はそれぞれ異なる視点から農本主義の意義を明らかにしようとしました。特に、農民の視点を重視することが重要であるとされたのです。

また、批判的な意見も存在し、坂口安吾や梅棹忠夫は、農本主義が文化的停滞を招いたり、商工業の発展に対抗する反動的な側面を指摘しました。

現代における農本主義

1970年代以降、近代主義の再評価が進む中で、農本主義の中でもエコロジー的な視点やコミューンの構築に向かう要素を探る動きが見られるようになりました。従来、ファシズムとの結びつきで否定的に評価されがちでしたが、農本主義には多様な側面があることが認識されつつあります。

結論

このように農本主義は近代日本における農業重視の思想であり、その成立と発展には多くの歴史的背景が存在します。農業が国の基盤であることを再認識することは、現代においても価値のある視点であるともいえるでしょう。

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