松方デフレ

松方デフレとは

松方デフレ（まつかたデフレ）は、明治時代の日本における重要な経済政策であり、特に1881年から松方正義が進めた一連のデフレーション誘導策を指します。この制度は、西南戦争での戦費調達を契機に膨張したインフレーションを抑えるために導入されました。松方財政とも呼ばれるこの政策は、経済の安定に向けた厳しい施策を取ったことが特徴です。

インフレの発生とその背景

西南戦争の戦費を賄うため、政府は不換紙幣、特に信用の低い太政官札を大量に発行しました。その結果、戦後には大規模なインフレーションが引き起こされました。この状況に対して、当時の大蔵卿である大隈重信は、経済の実態は紙幣流通量に基づくとし、銀貨不足が問題だと見なしました。彼は「積極財政」を支持し、外債を発行して銀貨を市場に流すことで、紙幣の価値を回復させるべきだと主張します。

一方で、次官の松方は、明治維新以来の政府の財政膨張がインフレーションの根本原因であると認識し、不換紙幣の回収が唯一の解決策だと強調しました。この主張は長年の財政経験を持つ大隈の政策を否定するものであり、大隈を激怒させました。二人の対立は激化し、伊藤博文が松方を内務卿として選任することで一瞬収束を見せましたが、最終的に松方は大蔵卿としてインフレーションの対策を主導することになります。

松方財政による対策

松方は、インフレーション対策として不換紙幣の回収と焼却に着手しました。1882年には、日本銀行条例を公布し、日本銀行を設立しました。そして、国内の銀貨の充実に依存した銀本位制の導入を目指し、「緊縮財政」を実施しました。資金調達のためには、官営工場の払い下げや、タバコ税・酒税などの増加を図り、さらに軍事費を除いた政府予算を縮小するなど、様々な策を講じました。

その結果、明治14年度の紙幣発行高は1.5億円に対し、本位貨幣（銀）の準備高は0.1億円（準備率8%）でしたが、明治18年度には1.2億円に対し、銀の準備高は0.45億円（準備率37%）まで改善されました。これにより銀本位制導入の基盤が整い、同年には銀兌換紙幣（大黒図案）が発行され、ついには明治30年には松方の念願の金本位制が実現しました。

松方財政の影響

しかし、松方財政によるデフレーション政策は、農産物市場に深刻な影響を及ぼしました。繭や米の価格が下落し、農村は困窮し、多くの農民が土地を売却して都市に流入した結果、労働者層と小作農層に階層分化が進みました。また、農地の集約が進み、多くの土地が地主や高利貸しに集中する事態が生まれました。

このような経済的苦境から、一部の農民は蜂起活動に走り、自由党を支持する反政府的な行動が各地で見られるようになりました。中村隆英は松方について、「手術は成功したが患者は死んだ」という比喩を用いて、その政策の重大さと影響を指摘しています。

松方デフレは、経済的な安定を追求する一方で、国民生活には厳しい影響を与えることになり、その後の日本の社会経済構造に深い影響を与えました。

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