辺丁一

辺 丁一

辺丁一（ピョン・ジョンイル、Jung-Il Byun）は、1968年11月16日生まれ、大韓民国出身の元プロボクサーです。WBC世界バンタム級のチャンピオンに輝いた実績を持ち、アマチュア時代には母国開催のオリンピックで波乱を巻き起こしたことでも知られています。

アマチュア時代とソウルオリンピック

辺丁一のキャリアで特に語り草となっているのは、1988年に開催されたソウルオリンピックへの出場です。バンタム級の韓国代表としてリングに上がった彼は、2回戦でブルガリアのアレクサンダー・フリストフ選手と対戦しました。しかし、1対4というポイントで敗れた判定結果に対し、辺丁一陣営は猛抗議。彼のセコンドはリングサイドで騒動を起こし、辺丁一自身もその判定に納得がいかないとして、試合後のリング上に1時間以上にわたり座り込みを続けました。この前代未聞の出来事は、会場に大きな混乱を招き、その日のボクシング競技の進行が一時中断される事態に発展しました。この出来事は、彼のボクシングキャリアの非常に印象的な、しかし物議を醸す始まりとなりました。オリンピックでのアマチュア戦績は1勝1敗です。

プロ転向と世界王座獲得

オリンピックでの一件から約2年後、1990年2月18日に辺丁一はプロボクサーとして新たな道を歩み始めました。プロのリングでもその才能を発揮し、デビューから快進撃を続けます。そして、プロ9戦目を迎えた1993年3月28日、彼は無敗のまま自身初となる世界挑戦のチャンスを得ました。相手はWBC世界バンタム級チャンピオン、メキシコのビクトル・ラバナレス選手。熱戦の末、12ラウンドを戦い抜いた辺丁一は判定で勝利を収め、見事、世界チャンピオンの座を手に入れました。これは彼にとって最大の栄誉であり、無敗での世界タイトル獲得という輝かしい記録となりました。

王者としての試練と日本の強豪たちとの対決

世界チャンピオンとなった辺丁一は、1993年5月28日に初防衛戦に臨み、これをクリアしてベルトを守ることに成功しました。しかし、この初防衛戦の最中に左拳を骨折するというアクシデントに見舞われてしまいます。この負傷は、彼の今後のキャリアに大きな影響を与えることになります。

当時、日本の元世界王者である辰吉丈一郎選手との対戦が注目されていました。辺丁一が世界王座を獲得する以前から、日韓のバンタム級トップ選手として期待されていたカードでした。骨折により、1993年7月22日に予定されていた辰吉選手との対戦は中止となり、辰吉選手は代わりにラバナレス選手と対戦し、WBC同級暫定王座を獲得しました。その後、11月25日には改めて辺丁一と辰吉選手の統一戦が組まれましたが、今度は辰吉選手が左眼網膜剥離を患い、王座を返上したため、この夢の対決はついに実現することはありませんでした。

代わりに、辺丁一は辰吉選手の欠場を受けて挑戦権を得た日本の薬師寺保栄選手と対戦することになりました。1993年12月23日に行われた2度目の防衛戦は、辺丁一にとってキャリアで初めての海外での試合であり、しかも敵地でのリングとなりました。薬師寺選手との試合はフルラウンドに及ぶ激しい攻防となりましたが、結果は判定で敗れ、辺丁一はチャンピオンの座を失いました。これはプロキャリア初の敗北でもありました。

再起戦と引退

王座を失った辺丁一は、再び世界の頂点を目指し、宿敵となった薬師寺保栄選手との再戦を熱望します。1994年7月31日、再度の世界挑戦として薬師寺選手との対戦が実現しました。この試合は、辺丁一がリベンジを果たし、再び世界チャンピオンとなるための重要な一戦でした。しかし、試合は薬師寺選手のペースで進み、辺丁一は試合中に5度ものダウンを喫してしまいます。そして、11ラウンドにレフェリーストップが入り、TKOで敗れました。

この薬師寺選手との再戦が、辺丁一の最後のリングとなりました。この試合をもって、彼はプロボクサーとしてのキャリアに終止符を打ちました。

プロ戦績

辺丁一のプロボクシングにおける戦績は以下の通りです。

総試合数: 12戦
勝利: 10勝 (うちKO勝利 4)
敗北: 2敗

獲得タイトル

WBC世界バンタム級王座 (防衛1)

辺丁一は、オリンピックでの衝撃的な出来事から始まり、無敗での世界王座獲得、そして日本のライバルたちとの激しいタイトル争いを経て引退するまで、まさに波乱に満ちたキャリアを歩んだボクサーでした。

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