辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票

「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票」は、2019年2月24日（竹富町では前日の2月23日）に沖縄県によって実施された住民投票です。正式名称は「普天間飛行場の代替施設として国が名護市辺野古に計画している米軍基地建設のための埋立てに対する賛否についての県民による投票」と、非常に長いものとなっています。この投票は、沖縄県の住民投票条例に基づいて行われました。

概要

この県民投票は、日本国政府が在日米軍海兵隊普天間飛行場（宜野湾市）の移設先として名護市辺野古地区に計画している代替施設建設に伴う埋め立てについて、「県民の意思を的確に反映させること」（条例第1条）を目的として行われました。海岸部の埋め立て許可は、公有水面埋立法に基づき都道府県知事（当時の沖縄県知事玉城デニー）が行うことと定められており、この投票結果はその判断材料の一つとなる位置づけでした。報道などで「辺野古への基地移設の是非を問う」と表現されることも少なくありませんでしたが、正確には「基地建設のための埋め立てに対する賛否」を問うものでした。

投票資格者は、沖縄県議会議員および沖縄県知事の選挙権を有する県民です（条例第5条）。投票は無記名で行われ、当初は「賛成」「反対」の2択とされましたが、後述の経緯を経て最終的には「賛成」「反対」「どちらでもない」の三つの選択肢から一つを選択する方式となりました（条例第6条）。投票結果のうち、いずれかの選択肢への投票数が投票資格者の総数の4分の1に達した場合、知事はその結果を尊重する義務を負い（条例第10条第2項）、結果を内閣総理大臣（当時の安倍晋三）およびアメリカ合衆国大統領（当時のドナルド・トランプ）に通知することが定められました（条例第10条第3項）。

投票実施までの経緯

投票実施に向けた動きは、市民団体「『辺野古』県民投票の会」が2018年5月に始めた署名活動から本格化しました。これは地方自治法に基づき、県民投票条例の制定を県に直接請求するための活動で、同年9月には条例制定に必要な有権者の50分の1をはるかに超える約9万3千筆の署名が集まり、知事へ直接請求が行われました。

これを受けて、沖縄県議会では条例案の審議が始まりました。県政与党は「賛成」「反対」の2択案を、県政野党である自民党や中立的な公明党は「賛成」「反対」に加え「やむを得ない」「どちらとも言えない」を含む4択案を提出。審議の結果、2択案が賛成多数で可決・成立し、条例は2018年10月31日に公布されました。条例では公布から6ヶ月以内の実施が義務付けられており（条例第4条第1項）、同年11月には2019年2月24日を投票日とする日程が発表されました。当時の玉城知事は県知事選挙で「新基地を造らせない」を公約に当選しており、県民投票を通じて移設反対の民意をより明確に示したいとの考えがあったと報じられています。

一部市町の不参加表明と三択案への修正

県民投票の事務は沖縄県知事が執行主体ですが、実際の投票事務は県内の各市町村が行うこととされていました（条例第13条）。これに伴い、各市町村議会に投票事務のための補正予算案が提出されましたが、複数の市町で否決される事態となりました。特に、宮古島市、宜野湾市、沖縄市、石垣市、うるま市の5市の市長は、議会での予算否決後も地方自治法に基づく首長の原案執行権を行使せず、投票への不参加を表明。これにより、全県民の約3割が投票できない可能性が生じました。

不参加を表明した市長たちは、議会の判断尊重、普天間飛行場が固定化される懸念、過去の住民投票で市民が分断された経験、投票結果が工事を止めないこと、2択ではなく4択での実施を求める声などを理由に挙げました。こうした動きの背景には、自民党の一部議員が市町村議会に対し、投票事務予算案の否決を働きかけていたとする報道もありました。沖縄弁護士会は、法の下の平等の観点から全県での投票権保障を求める異例の声明を発表して懸念を示しました。また、2000年の地方自治法改正により、県と市町村が対等な関係になり、県条例で市町村に投票事務を強制する権限がなくなったことも影響したと指摘されています。

この事態を受け、沖縄県議会内で調整が行われ、投票への全県的な参加を可能にするため、「賛成」「反対」に「どちらでもない」を加えた3択とする条例改正案が公明党などから提案されました。この妥協案は自民党を含む全会派（ただし自民党の一部議員は造反）の合意を得て、2019年1月29日に県議会で可決・成立しました。3択案の成立を受け、不参加を表明していた5市の市長も投票実施に転じ、全県での投票が可能となりました。

投票結果

県民投票は、2019年2月14日に告示、同年2月24日に投開票が実施されました。
当日有権者数：1,153,591人
投票率：52.48%
投票総数：605,385票
有効票数：601,888票

有効票のうち、「反対」が多数を占める結果となりました。琉球新報の事後調査によると、3択となったことで「どちらでもない」への投票が見られ、2択の場合よりも賛成・反対の割合がそれぞれ低下したことや、投票しなかった層には賛成や「どちらでもない」の割合が高い傾向が見られたと報じられています。

関連する議論や話題

この県民投票には、その「法的拘束力」を巡る議論がありました。総務省は、結果に従う義務を定めた法律がないため法的拘束力はないとの見解を示しています。一方、法学者の小林節氏は、憲法第95条の「法意」（特別法制定には住民投票での同意が必要）に沿うものだとの主張を展開しました。

また、インターネット上では埋め立て反対派に対する中傷やデマの拡散が見られましたが、文筆家の古谷経衡氏は、実際の投票結果で反対多数となったことから、こうした沖縄に対するデマやヘイト戦略が限界に達した可能性を指摘しました。

さらに、国外では沖縄県系4世のロバート・カジワラ氏らがホワイトハウスへの請願署名を行うなど、基地建設中止を求める動きがありました。カジワラ氏は辺野古の問題を国際問題とし、琉球独立にも言及しました。

投票結果を巡る議論では、日本維新の会所属（当時）の下地幹郎衆議院議員が、投票に行かなかった県民を「反対以外」に含める独自の計算（通称「#ミキオ算」）をツイートし、論争となりました。これに対し、ジャーナリストは不参加者の意思まで反映させるのは民主主義ではないと批判しましたが、自民党県議からは有権者全体に対する反対票の割合は十分な民意とは言えないとの疑問も呈されました。

当時の岩屋毅防衛大臣は、県民の民意をしっかり受け止めるとしながらも、国としての安全保障上の責任を果たす必要性を強調し、基地建設を継続する立場を示しました。これに対し、一部の国会議員から批判の声が上がりました。

関連項目

普天間基地移設問題
日米地位協定の見直し及び基地の整理縮小に関する県民投票（1996年実施）

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