辻輝子

日本の陶芸史において、女性が先駆者として道を切り拓いた事例の一つに、陶芸家・辻輝子（つじ てるこ、1920年～2017年）の存在が挙げられます。大正9年に東京都日本橋で生を受けた辻輝子は、「日本の女性陶芸家第1号」とも称される存在であり、その生涯にわたり、陶芸を中心に国際的な舞台で活躍するとともに、技術開発や後進の育成にも力を注ぎました。

辻輝子の芸術的なルーツは、若き日の学び舎にあります。駒沢高等女学校（現在の駒沢学園女子高等学校）を卒業した後、陶芸の道に進むことを決意。大森光彦や富本憲吉といった高名な陶芸家に師事し、技法や精神性を深く学びました。また、日本画家の浅香金四郎からも教えを受けるなど、幅広い芸術分野の薫陶を受けたことが、彼女の作品に独自の感性や表現をもたらす基盤となりました。

その才能は早くから認められ、わずか19歳でニューヨーク万国博覧会に作品を出品。さらに1941年にはサンフランシスコ万国博覧会にも作品を発表するなど、太平洋戦争が始まる前の時代から国際的な舞台で高い評価を得ていました。国内でも目覚ましい活躍を見せ、東京府現代工芸美術展では特賞を連続して受賞。国画会展でも特選に輝くなど、主要な美術展で確固たる地位を確立しました。この頃、東京都世田谷区若林に自身の工房兼窯である「辻輝子窯」を築き、創作活動の拠点としました。

戦後もその活動は精力的に続けられ、女流美術展や二科展といった多様な展覧会で作品を発表し続けました。1954年からは、日本の近代陶芸界の巨匠である北大路魯山人との交流が始まったことも、彼女の芸術観に深みを与えた重要な出来事と言えるでしょう。芸術家としての表現活動に加え、技術革新にも意欲的でした。1955年には硬質陶器製法の新しい手法を考案し、翌年にはその特許を取得。これは、素材や技法の研究にも深く取り組んだ、探求心旺盛な一面を示すエピソードです。

1970年には、静岡県伊東市宇佐美に新たな制作の場として「孔雀窯」を築きました。生涯にわたり国内外で作品を発表し続け、1965年にはメキシコ国立近代美術館に作品が収蔵されるなど、その評価は揺るぎないものでした。陶芸の普及や教育活動にも熱心で、1978年には東宮御所にて陶芸展を開催するなど、皇室とも縁がありました。

晩年においても、その功績を記念し、また自身の芸術世界を紹介するための取り組みが進められました。1994年には伊豆高原に「辻輝子 陶の華美術館」が開館し、代表作の多くが常設展示される場となりました。また、万華鏡の制作にも取り組み、1999年に開館した仙台万華鏡美術館では名誉館長を務めました。特に2002年には、敬宮愛子内親王の万華鏡を制作したことは大きな話題となりました。多くの作品と業績、そして革新的な精神を残した辻輝子氏は、2017年に97歳でその波乱万丈の生涯を閉じました。

辻輝子の特筆すべき点は、その家族構成にもあります。夫は日本犬研究家として知られる斎藤弘吉ですが、弟の辻清明は日本の現代陶芸を代表する一人であり、息子である辻厚成、そして孫の辻厚志もまた陶芸家として活躍しています。三代にわたって陶芸家を輩出した家系であり、辻輝子はその中心に位置する存在でした。著書に「彩陶の美　辻輝子の世界」があり、彼女の芸術観や作品世界を知る貴重な資料となっています。

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