近兼拓史

近兼 拓史

近兼 拓史（ちかかね たくし）氏は、1962年に兵庫県神戸市長田区で生まれました。映画監督や映画館経営者、そしてライターやマルチメディアプロデューサーとして知られる、多才なキャリアを持つ人物です。現在はミニシアター「ヱビスシネマ。」の支配人も務めています。

近兼氏のキャリアの始まりは、意外にもプロのレーシングライダーを目指したものでした。1981年から活動を開始しましたが、度重なる転倒事故により首や背骨、腰などに重傷を負い、下半身不随という困難な状況に直面します。長期にわたる入院とリハビリを経て、選手としての道を断念せざるを得なくなりました。しかし、この数年間の苦悩と体の不自由さが、座って行う精神労働、すなわちライターという新たな道を切り開くきっかけとなったのです。

1985年よりフリーライターとして活動を始めると、『週刊プレイボーイ』での世界各地を取材した体当たりルポやスポーツ記事、『モノ・マガジン』での職人技を紹介する記事などが脚光を浴びました。1990年には、地元神戸のKiss-FM神戸の立ち上げに参加し、番組制作や脚本ライターとして放送分野にも進出します。自身のモータースポーツ経験を生かし、鈴鹿8時間耐久ロードレースへのチーム参戦を企画・番組化したり、WGP世界チャンピオンへのインタビューを実現するなど、豪華なゲストと臨場感あふれる内容で注目を集めました。

モータースポーツ関連企画の集大成として、1993年には自らFIMオーストラリアン・サファリラリーに出場。改造した50ccのミニバイクで過酷な砂漠のコースに挑み、世界のレース関係者からは早期リタイヤが予想されましたが、その予想を裏切り走破。さらに、競技中に自ら撮影とレポート録音を行うという離れ業をこなし、各国のメディア関係者を驚かせました。惜しくも機材トラブルで途中リタイヤとなりましたが、ミニバイクの可能性と体当たり取材の迫力を実証しました。この経験は、後の単身での機動力ある海外取材スタイルの原点となります。実は、リタイヤ後に左腕骨折が判明したという逸話も残っています。

国内外での取材活動を通じて、フィリピンや雲仙岳などの大規模な自然災害を経験したことから、都市防災を生涯のテーマと位置づけるようになります。同年以降、自身の体験に基づき、有事におけるラジオの有効性を強く提唱し、「1都市1ラジオ局」設立運動を展開しました。

1995年の阪神・淡路大震災では自身も被災し、自宅や実家、事務所の全てが全壊するという甚大な被害を受けましたが、同時に防災メディアとしてのラジオの重要性を再認識しました。そして、主な被災地であった西宮市に、防災支援放送局として同年7月にコミュニティFM局「FMラルース」を開局します。1996年には株式会社西宮エフエム放送を設立し、多くのボランティアスタッフと共に新しい番組や技術開発に取り組みました。特に、いち早くスタジオにビデオカメラを導入し、ラジオ放送に動画を組み合わせたインターネットTV放送を開始したことは、リアルネットワークス社の協力もあり、放送と通信の融合の先駆例として注目されました。この頃から、出版、放送、ウェブなどのメディアが融合し、ボーダーレス化が進むと予測。ラジオを核としながら、ウェブや街頭ビジョンも活用した斬新なメディアミックススタイルは、国内外で大きな話題を呼びました。また、地域防災と地域コミュニケーションを重視するその姿勢は、後に続く多くのコミュニティFM局の開局の指針となりました。

1998年には西宮市や地元企業と連携し、第三セクターのさくらFM設立に貢献。2001年まで取締役として番組制作に携わります。2002年からは日米でライター・作家活動を本格的に再開。2003年には総合出版社ラルース・パブリッシングを設立し、自社出版も開始します。2005年には『モノ・マガジン』の年間大賞企画賞をダブル受賞し、ヒットメーカーとして各社の製品開発やプロデュースにも関わるようになります。2008年にはハリウッドの映画学校ISMP（インターナショナル・スクール・オブ・モーションピクチャーズ）のインストラクター兼日本事務局長に就任。また、『週刊プレイボーイ』での連載なども開始します。

2010年にはアメリカのタブロイド紙『ウィークリー・ワールド・ニュース』（WWN）の日本版編集長に就任。そのユニークなニュースを基にした番組は、チバテレビ、サンテレビ、ラジオ大阪などで放送され人気を博しました。2012年にはウクライナのチェルノブイリを訪れ、東日本大震災の支援として、現地の復興に貢献したとされるヒマワリの種を輸入。ヒマワリを通じた復興支援プロジェクト「ラルース・プロジェクト」をスタートさせました。2013年には、日本の中小家電メーカーを支援する「ジェネリック家電普及プロジェクト」を開始し、ジェネリック家電推進委員会の初代委員長に就任しています。

モータースポーツへの情熱も冷めることなく、2019年にはFIM・AMAのボンネビル・モーターサイクル・スピード・トライアルに挑戦。ここで合計6つの世界最速記録を樹立するという快挙を成し遂げました。近年は映画分野にも力を入れており、2020年に元暴力団事務所だった建物を取得し、2021年には自身が支配人を務めるミニシアター「ヱビスシネマ。」を開館。2023年には委員長として第1回丹波国際映画祭を開催するなど、地域文化振興にも尽力しています。

映画監督としても、『たこ焼きの詩』(2015年)や『銀幕の詩』(2022年)など「詩」シリーズを中心とした作品を手掛けています。その他、多数の著書があり、現在もラジオ大阪などでレギュラー番組を持つなど、多岐にわたるメディアで活動を続けています。レーサーとして志半ばで道を閉ざされながらも、その経験を糧にライターとなり、メディア、防災、出版、映画、そしてモータースポーツの世界で唯一無二のキャリアを築き上げてきた人物です。

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