近藤柏次郎

近藤柏次郎：才能と悲劇のピアニスト

近藤柏次郎（こんどう はくじろう、1900年8月17日 - 1932年7月13日）は、大正から昭和初期にかけて活躍した日本のピアニストです。その才能は早くから注目されましたが、30代という若さで、人気芸妓との情死という悲劇的な結末を迎えました。彼の短い生涯は、音楽への情熱、複雑な人間関係、そして時代の波に翻弄されたものでした。

音楽の才能を開花させた青年時代

近藤柏次郎は、浅野石油技師長の次男として生まれました。幼少期からピアノに親しみ、その才能を開花させます。暁星中学から府立一中、そして一高へと進み、一高では首席で卒業するほどの秀才でした。中学時代から本格的にピアノを学び始め、杉山長谷夫らに師事。山田耕筰の推薦で、来日中のデンマーク人ピアニスト、ジョージ・ロランジの伴奏を務め、一躍楽壇でその名を知られるようになります。

友人である藤原義江の証言によれば、近藤は中学時代はピアノに没頭するあまり学校を欠席することも多かったようです。また、一高時代には「勉強は嫌いだが、母親のために卒業だけはしてやる」と語っていたと伝えられています。この言葉からは、彼の繊細な一面と、家族への責任感が伺えます。

華やかな活躍とパリ留学

東京帝国大学法学部を卒業後、日仏銀行に勤務する傍ら、藤原義江の伴奏者としても活躍しました。1925年には音楽研究のためパリに留学し、アムールに師事します。パリでの生活は贅沢を極めたものでしたが、母親の急死により、1929年に帰国を余儀なくされました。帰国後は、フランス派ピアニストとして活躍し、西条八十作詞の「ミス・ニッポン」や「ニッポン・ムスメ」などの作曲も手掛けました。また、「シャリアピン自叙伝」の翻訳も行っています。

突然の悲劇：情死事件

1931年12月には、横浜の地主の娘と結婚しますが、その結婚生活は長くは続きませんでした。1932年7月、かねてより深い仲であった新橋大和屋の芸妓、千代梅（本名：森本さく）と代々木の自宅でガス心中を遂げました。千代梅は当時20歳で、人気芸妓として知られており、妊娠5か月でした。枕元には「どこかの隅に埋めてください」という走り書きの遺書が残されていました。

この心中事件は、当時大きな話題となり、新聞紙上を賑わせました。妻との別れ、結婚費用のためにピアノを差し押さえられたこと、精神的な打撃、経済的な困窮などが自殺の原因として報道されました。友人の証言によれば、多額の借金があったこと、結婚も金目当てだったという情報もあり、彼の死は多くの謎を残しました。

親族と事件後の影響

近藤の父、近藤会次郎は石油の専門家として活躍し、浅野石油柏崎製油所の設計指揮なども行っています。また、鉄隕石の分析にも携わったことでも知られています。近藤の死後、従弟である小説家の近藤一郎は、彼の自殺を題材にした作品を発表し、その死が人々に与えた影響の大きさを物語っています。

近藤柏次郎は、その才能と若さゆえに、より一層悲劇的な印象を人々に与えました。彼の生涯は、華やかな世界と、その裏にある苦悩、そして、時代の変化の中で生きる人々の脆さを映し出していると言えるでしょう。彼の残した音楽と、悲劇的な結末は、今もなお人々の心に深く刻まれています。

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