近藤会次郎

近藤会次郎：日本の石油産業を牽引した技術者・経営者

近藤会次郎（1866年11月20日 - 1920年7月5日）は、明治から大正にかけて活躍した日本の技術者・経営者です。浅野財閥の石油事業において、アメリカの先進的な石油技術を日本に導入し、日本の石油産業の近代化に大きく貢献しました。

生い立ちと学歴

1866年、近藤会次郎は岐阜県安八郡の農家に生まれました。幼少期から学業に励み、華陽農学校を卒業後、助教諭として短期間勤務しました。その後、上京し共立英学校で学んだ後、旧制第一高等学校（予備門）に進学、1889年に卒業しました。さらに東京帝国大学に進み、応用科学を専攻しました。大学時代は、今泉嘉一郎と同室で、ボート部では舵手を務めたと伝えられています。

1892年、大学卒業後、農商務省に入省し、隕石の鑑定などに携わりました。その鑑定した隕石が、時の大臣榎本武揚により流星刀として明治天皇に献上されたという逸話も残っています。

浅野財閥での活躍

1895年、大学の同窓であった白石元治郎に誘われ、浅野財閥の石油部門に転職しました。1896年にはアメリカへ渡り、現地の油田や製油所を視察し、技術者チャーレス・ハースを招聘しました。帰国後、日本初のタンクカーを深川車両工場に製造させたとされています。また、浅野鑿井部の部長として新潟県柏崎に赴任すると、数百万坪の鉱区を取得し、油井の掘削を開始しました。アメリカ式の最新製油施設を参考に、浅野柏崎製油所を設計・監督し、当時としては最大規模の製油所を建設しました。

1902年には、浅野柏崎製油所と浅野鑿井部の一部が宝田石油と合併したため、宝田石油の製油技師長に就任しました。同年、東宮（後の大正天皇）が宝田石油を視察された際には、石油技術について説明を行ったとされています。

南北石油と原油輸入

1906年、近藤会次郎は、アメリカのグラシオサ油田の原油品質を調査し、良質な原油であることを確認しました。その後、浅野総一郎の指示により、原油輸入と精製販売を目的とした南北石油の技師長に任命されました。アメリカに派遣された近藤は、油田や製油所を視察し、原油の買い付け契約を締結しました。また、東洋汽船が原油輸送のためにタンカーを発注し、日本初の原油輸入を実現しました。

1907年には、保土ヶ谷製油所が一部稼働を開始し、本格的な原油輸入時代が幕を開けました。この製油所は、当時としては驚くべき規模を誇り、日本の原油輸入量の大部分を占めていました。しかし、国内の石油業界から輸入原油に対する関税引き上げを求める声が上がり、国会で議論されることとなります。この関税引き上げは、浅野財閥の石油事業に大きな打撃を与えました。

さらに、原油供給元のグラシオサ・オイル・カンパニーがスタンダード社に買収されたり、契約が履行されないなどの問題が発生しました。近藤会次郎は、新たな原油供給元を求めて世界各地の油田を訪れましたが、南北石油は宝田石油に合併され、保土ヶ谷製油所も閉鎖されることとなりました。

窒素肥料調査と浅野スレート

1913年、近藤会次郎は、日本エナメル株式会社（現タカラスタンダード）の取締役に就任しました。同年、浅野総一郎とともに、硫安（窒素肥料）製造事業の調査のため、ヨーロッパとアメリカへ派遣されました。現地では、ハーバー法発明者やセルペック博士の工場を視察し、窒素肥料事業の可能性を探りましたが、時期尚早と判断しました。しかし、この調査の過程で、石綿スレート工場の製造販売権を獲得し、日本での事業化に繋げました。

1915年、近藤会次郎は浅野スレート株式会社を設立し、専務取締役に就任しました。第一次世界大戦による戦争景気も追い風となり、浅野スレートは急成長を遂げました。

日本カーリットと晩年

1916年、近藤会次郎は、カーリット爆薬の製造権を取得するため、スウェーデンへ派遣されました。帰国後、カーリット製造工場を建設し、浅野同族の製薬部部長に就任しました。その後、浅野同族の製薬部が日本カーリット会社となり、近藤は病気療養のため第一線を退きました。1920年、胃がんにより鎌倉で死去しました。

人物像

近藤会次郎は、技術者としての探求心が非常に強く、アメリカのホテルで水洗便所の構造を調べるために、便器に手を突っ込んで調べたという逸話が残っています。また、高峰譲吉からタカヂアスターゼの日本での販売権を無償で譲渡されましたが、その販売権を三共製薬に無償で譲渡したというエピソードも残っています。一方で、人と話す際に靴を履いた足を机やテーブルに乗せたり、事務所で食事をした後に床に落ちているマッチの燃えさしで歯をほじったりするなど、型破りな一面も持ち合わせていました。給料は袋に入ったまま妻に渡し、必要な金額だけ妻から受け取っていたとされています。

著作・論文

近藤会次郎は、多くの論文や書籍を執筆しています。
主な論文:
「日本産白金」
「三池石炭の化學的研究」
「岩石の顯微化學分折法」
「隕石ノ分析」
「本邦産石油試驗報文」
「石油及油類の引火點及襲火點の名稱に就て」
「石油精製法」
「北米合衆國に於ける石油業一般」
「石油業の大勢(石油商戰の原因)」
「窒素肥料」
「石油工業の現況」

主な著書:
『小有機化学』
『化学原論』(翻訳)
『新撰工業化学書』
* 『近世工業化学書』

まとめ

近藤会次郎は、日本の石油産業の発展に大きく貢献しただけでなく、化学技術者、経営者としても卓越した才能を発揮しました。彼の功績は、今日の日本の産業界の礎を築いたと言えるでしょう。

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