退屈

退屈とは何か？

退屈とは、時間を持て余したり、目の前のことに飽きてしまったりする状態、そしてその感情を指します。興味深い刺激が不足し、現状維持を強いられると、当初は興味を持てても、やがて飽きが訪れ、苦痛にさえ感じ始めます。退屈は単調な授業や作業から生じやすく、眠気やあくびを誘発することもあります。

何もすることがない場合

何もすることがない状態を「暇」と言いますが、休息が必要な場合は有益です。しかし、休息後も暇を持て余すと、退屈を感じます。暇つぶしや退屈しのぎは、この退屈を解消するための行動です。長期休暇も、場合によっては退屈を招き、予定を詰め込んだり、逆に退屈を楽しむという選択肢もあります。

何かをする場合

何かをしていても、受動的な行動や単純作業の繰り返しは退屈を生みます。退屈を避けるには、感覚や刺激に変化を与えることが有効です。授業中など、眠気や退屈を感じても寝られない状況では、自らを刺激する工夫が必要です。落書きや私語、指遊びなども、退屈しのぎの行動と言えます。

単純作業の繰り返しは、特に退屈を生じやすいです。工場における流れ作業は、作業効率化に貢献した反面、労働者の退屈を招いた側面も否定できません。そのため、音楽を聴いたり、作業の種類を変えたりする対策が取られるようになりました。

退屈の許容と価値

安定した生活を送る人にとって、日常生活が退屈に感じられることもあります。しかし、退屈な生活は、波瀾万丈な人生と比較して、幸せな状態と言えるかもしれません。退屈を許容することは、幸せを知ることに繋がるのです。

一般的に退屈は無価値と思われがちですが、退屈を感じられるということは、生活に余裕があることの証です。厳しい生活を送っていた時代には、退屈は存在しなかったでしょう。退屈は、新たな刺激ややり方を模索する動機にもなります。芸術も、常に新たな感覚的刺激を追求してきました。

退屈に関わる事件と心理学

2005年には、高校入試問題で「ひめゆり学徒の体験談は退屈」という記述が問題となりました。この事件は、退屈という感情に対する社会的な捉え方を見直すきっかけとなりました。

心理学では、「退屈」は「現在行われている活動に興味を失い、集中しにくい不愉快な状態」と定義されます。退屈は、何もすることがないからではなく、特定の活動に集中できないから生じるのです。

退屈には、(1)何かにすることができない、(2)望まない活動を強いられている、(3)理由なく何もする気がしない、といった種類があります。心理学では「退屈感志向」という概念も存在し、これはあらゆる種類の退屈を経験しようとする傾向を指します。退屈は、抑鬱的傾向や注意欠如とも関連していることが分かっています。

退屈の哲学

哲学では、「倦怠」という言葉で表現されることもあります。パスカルは、活動が邪魔されることで生じる「機械的退屈」を指摘しました。一方、活動自体がつまらないために生じる退屈もあります。ハイデガーは、「空虚な時間性」という概念を用いて、この退屈を説明しました。

さらに根本的な退屈として、「自らへの退屈」があります。これは、周囲に活動の目的となるものがいくらあっても、それらに全く関心が持てない状態です。サルトルは、この状態を「嘔吐」という作品で描きました。

退屈は、自身の有限性という悲惨さを知ることです。この悲惨さから目を背けようとすると、かえって悲惨になります。退屈の経験は、自身の存在の意味を問う機会となります。

パスカルは、無限の空虚としての退屈を埋めるのは信仰だと考えました。しかし、退屈からの脱却方法は様々であり、重要なのは、単に逃れるためなのか、それとも退屈を受け入れるのかという点です。

「気晴らしの人」は、存在論的空虚に気づいておらず、退屈の中に何があるのかを知ろうとしません。一方、「反復の人」は、退屈の経験を通して自身を取り戻し、存在論的空無性を認識することで、真の目的を見つけます。「気晴らしの人」は未来を、「反復の人」は過去を生きることで、自身に固有の意味を見出そうとします。

退屈と文学

大江健三郎は、同じ景色でも想像力の働きによって退屈と感じ方が変わることを指摘しました。昔話では、退屈が物語の始まりとなるケースが多く、禁を破る原因として描かれています。これらの物語には、当時の民衆の畏怖や願望が反映されていると考えられます。

時代劇『暴れん坊将軍』や『旗本退屈男』は、高貴な身分の主人公が退屈を解消するために庶民と接触するという物語です。これらの物語では、退屈への対処法が時代や社会によって異なることが示されています。

退屈について問うことは、自分自身について問うことなのです。

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