送達

送達

法律用語としての「送達（そうたつ）」とは、裁判所や行政機関といった公的な主体が、特定の関係者に対して訴訟や行政に関する書類を正式に送付する一連の手続きを指す。この概念は、適用される法律分野によってその詳細や手続きに違いが見られる。本稿では、特に訴訟法と行政法における送達について解説する。

訴訟法における送達

訴訟法において送達は、裁判所が裁判権に基づき、当事者その他の訴訟関係者に対し、法で定められた方式に従い、訴訟上の書類を交付し、または交付を受ける機会を与える行為をいう。民事訴訟法（第98条以下）や刑事訴訟法（第54条）に定められており、刑事訴訟では原則として民事訴訟法の規定が準用される（公示送達などを除く）。

送達制度には、大きく分けて当事者送達主義と職権送達主義がある。当事者送達主義は、訴えを起こした当事者自身が相手方に書類を送付する責任を負うもので、ドイツやアメリカなどが採用している。これにより、当事者による直接の送付（直接送達）が認められ、訴訟は相手方への送達が完了した時点（訴訟繋属）から始まったものとみなされる。一方、職権送達主義は、裁判所が公的な権限をもって送達を行う制度であり、日本はこの立場をとる。この制度的な違いは、特に国際的な裁判手続きにおいて影響を及ぼす。送達に関する国際的な取り決めとしてはハーグ条約などがあり、日本も加盟しているが、例えばハーグ送達条約第10条(a)（郵便等による送達）については、日本政府は2018年に拒否する旨を宣言している。

日本の訴訟法における送達は、裁判所の職権として行われるが、実務上は裁判所書記官がこれを扱い（民事訴訟法第98条第2項）、原則として郵便または執行官が送達の実務を担う（民事訴訟法第99条第1項）。なお、民事訴訟において訴訟代理人間で準備書面などをファクシミリ等でやり取りすることは実務上「直送」と呼ばれるが、これは「送付」であって、法的な「送達」とは区別される。

送達の目的

送達の最も重要な目的は、訴訟上の書類を、関係者に対して確実に届け、その内容を了知する機会を保障することにある。訴訟上の期間計算など、多くの手続きは、送達が完了した時点から進行するため、その到達の確実性が極めて重要となる。郵便などの通常の方法で送達ができない場合、やむを得ず最終的な手段として用いられるのが公示送達である。これは、裁判所に書類を一定期間掲示することで、送達が完了したものとみなす方法である（民事訴訟法第110条）。

日本の訴訟法における主な送達方法

日本の民事訴訟法においては、以下の送達方法が定められている。

交付送達（民事訴訟法第101条、第103条第1項）：原則的な方法。名宛人の住所、居所、または就業場所に、特別送達による書留郵便等で書類を配達する。名宛人が私書箱を保有している場合でも、実際の場所に配達される。当事者が事前に届け出た送達場所がある場合は、そこに送達しなければならない。
出会送達（民事訴訟法第105条）：名宛人の住所地以外で、当事者と出会った場所で書類を交付する方法。郵便局の窓口で受け取る場合などもこれに含まれる。
補充送達（民事訴訟法第106条第1項）：名宛人が不在の場合に、同居している親族や従業員など、書類を受け取って本人に渡すだけの分別がある者（相当のわきまえのある者）に代わりに書類を交付する方法。
差置送達（民事訴訟法第106条第3項）：名宛人が、正当な理由なく書類の受領を拒んだ場合に、送達すべき場所に書類を置いてくる方法。

これらの送達は通常、郵便局員または執行官によって行われ、その実施を記録した送達報告書が公文書として作成される（民事訴訟法第109条）。

また、裁判所書記官が直接行う送達方法もある。

裁判所書記官による送達（民事訴訟法第100条）：裁判所に出向いた当事者や代理人に対し、書記官がその場で書類を交付する方法。
書留郵便等に付する送達（民事訴訟法第107条第1項）：通常の方法で送達できなかった場合に、書記官の判断により書留郵便または民間信書便で発送し、発送した時点で送達が完了したものとみなす方法。実際に名宛人が受領したかどうかは問わない。
公示送達（民事訴訟法第110条）：送達すべき場所が不明な場合など、法律で定められた要件を満たす場合に、裁判所の掲示場に書類に関する事項を一定期間掲示する方法。掲示開始から2週間（特別の場合を除く）が経過すると送達の効力が生じる（民事訴訟法第112条第1項）。この方法も受領の事実は問わないが、公示送達による場合は、名宛人が答弁書等を提出しない場合に訴訟上の効果として自白したものとみなされる「擬制自白」は成立しない（民事訴訟法第159条第3項ただし書）。

行政法における送達

行政法における送達は、官庁が国民に対して行政処分などの意思表示や関係書類を送付する手続きを指す。特に税法分野で詳細な規定が多く見られる。例えば、国税通則法（第12条から第14条）、地方税法（第20条、第20条の2）、関税法、地方自治法などに規定がある。

行政法には、訴訟法のような当事者送達主義と職権送達主義といった区別はない。送達の方法は訴訟法と類似する点が多いが、用語の定義など微妙な違いも存在する。

行政法における主な送達方法

行政法における主な送達方法は以下のとおりである。

郵便又は信書便による送達：郵便または信書便を利用して書類を送付する方法。通常の取扱いによる場合と、簡易書留、書留、配達証明など到達が証明できる特殊な取扱いによる場合がある。通常の取扱いの場合、書類が通常到達すべきであった時に送達があったものと推定される（国税通則法第12条第2項）。この場合、官庁は発送の事実を記録する発送簿を作成する必要がある。訴訟法上の特別送達（書留が必須）と異なり、行政法では必ずしも書留とする必要はない。
交付送達：送達を行う職員が、直接名宛人や関係者に対して書類を手渡す方法。この場合、職員は送達記録書を作成し、受領者の署名または押印を求める。差置送達の場合もその旨を記載する。行政法における交付送達の定義は、訴訟法上のそれと異なる。訴訟法では書留郵便等による送達を含む場合があるが、行政法においては、職員が直接手渡す方法を指し、さらに後述の出会送達、補充送達、差置送達もこの交付送達の一種として規定されている。
原則的交付送達：送達すべき場所において、送達を受けるべき者本人に書類を交付する方法（国税通則法第12条第4項本文）。
出会送達：送達を受けるべき者の同意がある場合、送達すべき場所以外で（勤務先や税務官署に出向いた際など）、本人と出会った場所で書類を交付する方法（国税通則法第12条第4項ただし書）。
補充送達：送達すべき場所で本人に会えない場合に、相当のわきまえのある同居人や従業員等に書類を交付する方法（国税通則法第12条第5項第1号）。
差置送達：送達すべき場所に本人がいない、または本人や同居人等が書類の受領を正当な理由なく拒んだ場合に、書類をその場所に差し置く方法（国税通則法第12条第5項第2号）。
公示送達：書類の送達を受けるべき者の住所や居所が不明な場合、または海外での送達が困難な場合に、郵便や交付送達に代えて行われる方法。税務署などの掲示場に、書類の名称や名宛人の氏名などを一定期間掲示することで行われる（国税通則法第14条第2項）。

まとめ

送達は、訴訟や行政手続きにおいて、関係者に重要な書類を確実に到達させるための不可欠な制度である。訴訟法と行政法では、その根拠となる法律や制度の考え方に違いがあり、特に具体的な送達方法の定義（交付送達の範囲など）や、書留の必須性などに差異が見られるため、それぞれの分野に応じた正確な理解が必要とされる。

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