逃亡 (松本清張)

小説『逃亡』の概要

松本清張による長編時代小説『逃亡』は、1964年から1965年にかけて『信濃毎日新聞』夕刊など11紙で連載された後、1966年にカッパ・ノベルスから刊行されました。この作品は、文政年間を舞台としており、陰謀に巻き込まれた男の逃亡と、それに伴う様々な人間模様を描いています。

あらすじ

文政12年、江戸神田で発生した大火により、牢奉行は囚人たちを一時解放します。源次という名の男も、他の囚人と共に逃げ出しましたが、彼の運命はそう単純ではありませんでした。彼は大火の混乱の中で、女性を助けることになり、その女性お仙の家に招かれた結果、思いもよらぬ罠に嵌まります。彼女の夫である下谷の岡っ引、梅三郎が源次を追跡し、彼を捕らえようとしています。

源次は梅三郎の策略を逃れるために、様々な人々と出会いながら、その中に秘められた人間の善と悪を垣間見ます。特にお蝶という弟子と親密な関係を築きながらも、二人の決意は再度逃げることに繋がります。

登場人物

• - 源次: 甲州出身の無宿者。軽罪で逮捕され、牢に入れられていました。
• - 梅三郎: 懸命な下谷の岡っ引で、源次を追い詰める存在。
• - お仙: 梅三郎の情婦で、最初に源次を助けた女性。
• - 卯平: 番小屋の老人で、源次に助けを差し伸べます。
• - お蝶: 錺師の娘で、源次と深い絆を結んでいる若い女性。

作品の評価

本作は、時代背景を基にした深い人間ドラマが魅力の一つです。文芸評論家の縄田一男は、『逃亡』を無宿者の物語の集大成と評価し、その逆境に立たされる人々の切なさや、権力者たちの醜さを描いた点を高く評価しています。また、福岡隆も『逃亡』のテンポの良さと人物描写の深さを称賛しており、この作品における無宿者たちの切実な生き様が、読者に強く響くことを指摘しています。

テレビドラマ化

『逃亡』は1966年と2002年の2回、テレビドラマ化されています。1966年の版は加藤剛が源次役を演じ、全10回の放送が行われました。2002年版では上川隆也が源次役を演じ、原作とは異なる結末で視聴者の注目を集めました。

関連事項

小説では大山阿夫利神社への参詣が描かれ、作品の舞台設定にさらなる深みを与えています。また、物語の後半では神奈川県の大山も重要な舞台となっています。

このように、『逃亡』は松本清張作品の中でも特に注目される時代小説として、多くの読者に親しまれています。人間の生存本能と道徳の葛藤を描いたこの物語は、今後も多くの人々に感動を与えることでしょう。

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