逆周圏論

逆周圏論とは

逆周圏論とは、地理的な分布現象において、中心部に古い形態が残存し、その周囲に新しい形態が分布する現象を指します。この概念は、言語学、特に方言学の分野でよく議論されます。一見すると、中心から外側に向かって新しいものが広がるように見える「方言周圏論」とは対照的な現象です。

アクセント分布における逆周圏論の例

日本語の方言におけるアクセントの分布は、逆周圏論を説明する上で非常に分かりやすい例として挙げられます。かつて日本の文化的な中心地であった京都を中心とする地域には、京阪式アクセント、またはその変種が分布しています。この京阪式アクセントを取り囲むように、東海地方から関東地方西部、そして中国地方にかけては東京式アクセントが分布しています。

さらにその外側、関東地方の東部から東北地方南部、そして九州地方などには、二型式アクセントや一型式アクセント（無アクセント）が見られます。この分布を単純に見ると、中心から外側に向かって新しいアクセントが広がっているように感じられますが、アクセントの歴史を考慮すると異なる解釈が可能になります。

京阪式アクセントは、日本語のアクセントの中でも古い形態をよく保持していると考えられています。一方、東京式アクセントはそれよりも新しい形態であり、無アクセントは最も単純化された形態であると考えられます。このことから、アクセントの変遷が、中心から周辺に向かって単純化する過程を表しているとも解釈できるのです。これが逆周圏論の基本的な考え方です。

逆周圏論に対する異論

しかし、逆周圏論に対する異論も存在します。特に東京式アクセントの成立については、京阪式アクセントと周辺部の無アクセントが接触した結果、新しいアクセントとして東京式アクセントが生まれたとする説も有力です。この説は、逆周圏論とは対立する考え方となります。このように、言語現象の解釈は必ずしも一つではなく、多様な見方が存在します。

その他の例と適用範囲

また、方言の例として、東北地方と山陰地方にみられる「ズーズー弁」の分布も、逆周圏論で説明されることがあります。この二つの地域は地理的に離れているにもかかわらず、共通の特徴を持つ方言がみられるのは、何らかの共通の基層語が存在したためとする説もあります。しかし、この様な現象まで逆周圏論で説明できるのかについては、学者によって見解が異なります。逆周圏論は、言語現象を解釈する上での一つの視点ではありますが、その適用範囲については慎重に検討する必要があります。

まとめ

逆周圏論は、地理的な分布パターンから歴史的な言語変化を考察するための重要な視点を提供します。しかし、言語現象は複雑であり、単一の理論で全てを説明することはできません。逆周圏論を理解する上で、様々な学説や研究を参考にしながら、多角的な視点を持つことが大切です。

参考文献

小林, 隆『方言学的日本語史の方法』ひつじ書房〈ひつじ研究叢書(言語編)第32巻〉、2004年2月27日。
山口, 幸洋『日本語東京アクセントの成立』港の人、2003年9月20日。
岸江, 信介「山口幸洋著, 『日本語東京アクセントの成立』, 2003年9月20日発行, 港の人刊, A5判, 485ページ, 本体価格12,000円」『日本語の研究』第1巻第1号、日本語学会、2020年4月6日、84-90頁、doi:10.20666/nihongonokenkyu.1.1_84。
小泉, 保『縄文語の発見』青土社、1998年5月。

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