逆転写酵素

逆転写酵素の概要

逆転写酵素（ギャクテンシャコウソ、英: reverse transcriptase）は、RNAを鋳型としてDNAを合成する酵素であり、EC番号は2.7.7.49に分類されます。1970年にハワード・マーティン・テミンとデビッド・ボルティモアが独立して発見しました。この酵素は主にレトロウイルスの増殖に関わっており、RNAからDNAへの転写を行う逆転写反応を触媒します。

セントラルドグマの見直し

これまでの遺伝情報の流れはDNAからRNAへの一方向と考えられていたため、逆転写酵素の発見はこの理解に大きな影響を与えました。従来のセントラルドグマに反する形で、RNAからDNAへの逆転写が可能であることが明らかになり、この現象は遺伝情報の転送における新たな視点を提供しました。ただし、タンパク質のアミノ酸配列から直接ゲノムが転写されることはないため、全体としてはRNAからDNAへの流れが特別な例として受け入れられています。

逆転写酵素の利用

逆転写酵素は、cDNA（相補的DNA）の合成にも利用され、遺伝子工学や細胞内での活動している遺伝子の特定に欠かせないツールとなっています。特に、レトロウイルスはRNAのみを持つため、逆転写を経てcDNAを生み出します。このプロセスはHIVなどのレトロウイルスの増殖に不可欠であり、それに対抗するための阻害剤が治療薬として広く使用されています。

HIVと治療薬

エイズの治療においては、アジドチミジン（AZT）やddC、ddI、ネビラピン、HEPTなどの抗エイズ薬が逆転写酵素の動作を阻害することにより、HIVの増殖を抑制します。これにより、ウイルスの拡散を防ぎ、感染者の健康を維持するための治療手段として重要な役割を果たしています。

B型肝炎ウイルスへの影響

さらに、逆転写酵素はB型肝炎ウイルス（HBV）の増殖にも関与しています。HBVはDNAウイルスで、プレゲノムRNAを転写した後に逆転写によってDNAを合成します。B型肝炎の治療薬としては、ラミブジン、アデフォビル、エンテカビル、テノフォビルなどがあり、これらはHBVの逆転写酵素の作用を阻害してウイルスの繁殖を抑制します。

結論

逆転写酵素は、遺伝子の伝達に新たな道筋を提供する分子的な魅力を持ち、レトロウイルスやB型肝炎ウイルスの治療における重要なターゲットとなっています。このように、逆転写酵素は生命科学の研究や医療分野における重要な要素として、ますます注目を集めています。

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