通過 (天文)

天文学における「通過」現象

天文学における「通過」（transit）とは、観測者から見て、ある天体が別の天体の前面を横切るように見える現象を指します。これは、ある天体が別の天体の手前を通過するように見えるため、経過とも呼ばれます。この現象は、天体が地球の自転によって昇ってから沈むまでの中間点、すなわち子午線を通過する際にも見られます。しかし、本記事では、天体が別の天体の前を横切る現象としての通過に焦点を当てて解説します。

通過、掩蔽、食の違い

通過、掩蔽、食は、いずれも天体が別の天体の前を通過する際に起こる現象ですが、それぞれに違いがあります。通過は、手前の天体の見かけの大きさが、奥の天体よりも小さい場合に起こります。一方、手前の天体の方が大きく見え、奥の天体を完全に隠してしまう場合は「掩蔽」と呼ばれます。また、ある天体が別の天体の影に入る現象は「食」として知られています。これらの現象は、3つ以上の天体が一直線上に並ぶ朔望の際に目に見える形で現れます。

通過の具体例

最も一般的な通過の例として、太陽面通過があります。これは、地球から見て、水星や金星が太陽の前を横切る現象です。また、火星など外側の惑星から見ると、地球が太陽面を通過する様子も観測できます。さらに、衛星が母惑星の前を通過する現象も「通過」と呼ばれ、例えば、木星の衛星が木星の前面を横切る様子などが挙げられます。

通過が起こるためには、3つの天体が一直線上に並ぶ必要があります。非常に稀なケースでは、4つの天体が一直線に並ぶこともあります。例えば、1894年には、金星から見て水星が太陽面を通過し、同時に土星から見ると水星と金星が太陽面を通過するという珍しい現象が観測されました。

近年では、太陽系外惑星の発見が進み、これらの惑星が主星の前を通過する様子を観測することが可能になりました。最初に発見された例としては、恒星オシリスの前面を通過する惑星が挙げられます。

惑星相互の通過と掩蔽

非常に珍しいケースとして、ある惑星が別の惑星の前面を通過する現象があります。次に地球から観測できるのは、2065年11月22日頃で、金星が木星の前を通過します。ただし、この現象は太陽に近い位置で起こるため、肉眼で見ることは難しいでしょう。惑星同士が通過する際、手前の惑星が奥の惑星よりも大きく見える場合は、掩蔽となります。例えば、2065年の金星と木星の通過の際、地球の南端部からは、金星が木星の衛星であるガニメデを掩蔽する様子が観測できる可能性があります。観測される正確な時間は、観測者の位置によって数分のずれが生じます。

地球から見て、1700年から2200年の間に観測できる惑星同士の通過や掩蔽はわずか18回しかありません。特に1818年から2065年までは、長期間にわたり惑星の通過が見られなかった空白期間です。

惑星同士の通過・掩蔽の例:

1702年9月19日：木星が海王星を掩蔽
1705年7月20日：水星が木星面を通過
1708年7月14日：水星が天王星を掩蔽
1708年10月4日：水星が木星面を通過
1737年5月28日：金星が水星を掩蔽
1771年8月29日：金星が土星面を通過
1793年7月21日：水星が天王星を掩蔽
1808年12月9日：水星が土星面を通過
1818年1月3日：金星が木星面を通過
2065年11月22日：金星が木星面を通過
2067年7月15日：水星が海王星を掩蔽
2079年8月11日：水星が火星を掩蔽
2088年10月27日：水星が木星面を通過
2094年4月7日：水星が木星面を通過
2104年8月21日：金星が海王星を掩蔽
2123年9月14日：金星が木星面を通過
2126年7月29日：水星が火星を掩蔽
2133年12月3日：金星が水星を掩蔽

1737年の金星による水星の掩蔽は、ジョン・ベヴィスによって観測記録が残されており、惑星同士の掩蔽に関する唯一の詳細な記述となっています。1170年には、火星の木星面通過が観測されており、1590年には、金星が火星を掩蔽した記録が残っています。

接触の概念

通過現象において、小さい天体の円周が、大きい天体の円周に接する瞬間を「接触」と呼びます。接触は、通過の過程で4回発生し、それぞれ以下のように定義されます。

第1接触: 小さい天体が大きい天体の外側から内側に入り始める瞬間
第2接触: 小さい天体が完全に大きい天体の内側に入った瞬間
第3接触: 小さい天体が大きい天体の内側から外側に出始める瞬間
第4接触: 小さい天体が完全に大きい天体の外側に出た瞬間


これらの接触のタイミングを正確に観測することで、天体の位置や軌道に関する正確な情報を得ることができます。

まとめ

通過現象は、天体の運動を理解する上で重要な現象です。太陽面通過、惑星同士の通過、衛星の通過など、様々な種類が存在し、それぞれが独自の観測価値を持っています。これらの現象を理解することで、私たちは宇宙の構造や運動をより深く理解することができるのです。

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