速読術

速読術とは？：効率的な読書のための技術

速読術は、文章をより速く読むための技術または方法です。読書速度を向上させ、効率的に大量の書物を読破することを目的としています。

速読術の概説

学問的には、すべての文字を順に追って理解して読むことが読書の前提とされます。その上で速い読書法が速読法です。一般的には、拾い読み、飛ばし読み、斜め読み、写真記憶などが速読術のテクニックとして知られています。重要なのは、速く読み、読む目的を達成できることです。

従来、速読術の習得には、視野の拡大、理解度の向上、情報引き出し速度の改善が必要とされ、訓練が行われてきました。しかし、心理学の研究により、2016年までにこれらの効果がないことが明らかにされています。営利目的の指導の中には、訓練内容を事前に伝えない、速読能力の実証を避けるなどの問題があり、科学的なように見せかけたオカルト的な超能力開発との批判もあります。

速読術の可能性と限界

速読力は、かつては天賦の才能と考えられていましたが、近年では実験心理学による科学的な分析が進められています。読解力の元となる語彙力、知識力、集中力には個人差があり、トレーニングの効果も異なります。また、「理解」の客観的な評価が難しいという問題もあります。心や脳の機能が完全に解明されていないため、速読術は厳密には解明されておらず、確立された方法はありません。

日本では、日本速読協会、川村明宏、栗田昌裕、佐々木豊文、寺田正嗣などが有名です。これらの手法は科学的な実験で効果が検証されており、川村の手法は時間経過とともに速度が低下することが示されています。佐々木豊文の手法では、長年のトレーニングにより一定の速度と理解度を達成した被験者もいますが、「速読は割に合わない」という結論を出す研究者もいます。

速読術の大別

速読術は、その由来、目指す読み方、トレーニング方法、トレーニング原理の有無、達成速度などによって分類できます。

個人の思いつきや体験に基づく方法 vs. 学問的研究に基づく方法
部分読み vs. 全部読み
テクニック習得 vs. 視覚・認知機能の開発
達成速度（2〜3倍 vs. 1分間に100万字）

自分に適した速読術を選ぶためには、目標や目的を明確にし、各方法論と能力をよく理解することが重要です。

状況に応じた読み分け

速読を「全体理解」と「精読」に分類し、樹木に例えると、「全体理解」で幹や大枝を捉え、「精読」で葉っぱや花など細かな部分に注意を向けます。専門書や試験問題を学習するには、「精読」が中心となります。

速読術の歴史と現状

科学的研究では、速読術は全ての文字を順に読んでいく読み方が前提です。拾い読みや飛ばし読みは研究対象外です。読書の研究は、実験心理学の祖W. M. ヴントから始まり、J. M. キャッテル、E. ジャヴァールらによって発展しました。ジャヴァールは、読書中の目の動きが停留と飛越の繰り返しであることを発見しました。

アメリカでは、視声距離、読書速度、目や耳の認識などが研究され、クワンツ教授は、読みの速い人が音声化の過程を通さずに認識できることを発見しました。眼球運動の研究が進み、停留、飛越運動、行間運動、逆行運動の４つに分類されました。読書速度の速い人は、停留数が少なく、逆行数が少ないことが実験で明らかにされ、認知視野を広げ、集中して読むことが速読の要諦と考えられました。

シラキュース大学では1925年に速読法の講座が開講され、エヴェリンウッドの速読法はケネディ大統領やカーター大統領もトレーニングしました。日本では田中広吉が眼球運動を観察し、アメリカ式速読術が紹介されました。1960年代からは、ビジネス分野での情報処理速度向上のための自己啓発書が出版されるようになりました。

大韓民国の朴鏵燁は、教育心理学と読書心理学を総合して画期的な速読教育を打ち出しました。1982年にNHKでソウル大学校の講義が報道され、1984年にキム式速読術が日本に入ってきましたが、批判も出ました。1980年代にはパソコンやインターネットが普及し、フォトリーディングなど様々な速読トレーニングが生まれました。

朴鏵燁は、NBS日本速読教育連盟に招かれ、佐々木豊文と共同で指導プログラムを作成し、多くの研究者と共同研究を行っています。

科学的研究による知見

速読術に関する科学的研究は、NBS日本速読教育連盟の受講生を対象に、専門家によって共同研究が行われています。脳波計、fMRI、NIRSなどを用いて脳活動を測定し、文章理解や眼球運動、空間的注意などを検討しています。

現在の研究結果では、読書能力はトレーニングによって向上し、高度に熟達した速読者では、理解を伴った高速での読みが可能です。速読時には脳の音韻的処理に関係する部位の活動が低下し、有効視野が拡大します。また、右脳頭頂葉の空間認識領域が活性化し、視覚野や左脳の読書書字中枢、右脳の空間認識野などが関係する新たな脳神経回路が使われていると想定されます。速読時は集中力が高まり、マインドフルネス傾向や主観的幸福感が高く、抑うつ傾向が低いことが示されています。

高度な読書力と速読テクニックの混同

高速で理解できる読書能力は、多くの書物を読んだ人だけが到達する高度な読書力です。それは文章全体を順に追い、著者の思考経路をたどって正確な理解を期すものです。

1960年代頃から情報化時代が始まり、知識を得るだけの読み方が意味を持つようになり、速読術が登場しました。現代では情報をすばやく処理することが不可欠であり、速読術の存在意義があります。

しかし、速読術のテクニックを使った高速の情報処理は、高度な読書力とは必ずしも言えません。高度な読書力を得るためには、多くの書物を読み、語彙力や知識力、思考力などを磨くことが不可欠です。全ての文字を順に読んでいく読み方で速く読めるようになる速読術なら、高度な読書力の育成に役立ちます。

速読術への批判

速読術は、早く読むために一時的に用いる技術という面と、読書力を改善向上させた結果習得される能力という面があります。前者は、必ずしも読書力の向上を意味しません。読書力の低下が心配されている教育現場では、正確に理解する読解力が育っていない生徒や学生に速読術を教えることには批判的です。

研究者の間では、速読では理解度が低下するという批判があります。アメリカでは、速読はスキャニングやスキミングとして捉えられており、この批判は的を射ています。速読に関する研究は、人間の知的能力とその活動についての測定や調査であり、難しい課題が多いです。

日本では、速読では右脳も使われていることが報道され、速読術に対する見解は批判一辺倒ではなくなりました。また、「広辞苑」にも見出し語として採用されるようになりました。

具体的な訓練方法

通常の読書速度は、成人でも200字／分程度から3000字／分程度まで差があります。読書速度の速い人がごく当たり前にやっていることは、遅い人にとっては、速読テクニックとなります。

精神集中：集中して読むことで、誰でも速く読むことができます。ストップウォッチを使って速度を意識することも有効です。
読む目的に応じた読みわけ：精読するにしても、概要を把握しておくことは、正確な理解や効率の良い読みに役立ちます。目次や解説文を読んだり、拾い読みや斜め読みをして概要を把握したりします。
「視読」と速読：文字を心の中で音声化せずに理解する「視読」は、高度な読書力を有する人が自然に発達させている能力です。多読の結果として発達した読み方を真似ても理解は伴いません。合理的な速読術トレーニングで速く読めるようになったなら、「視読」の能力は自ずと伴います。

速読術の効果と諸言語

日本語では、漢字のイメージ化しやすい特徴を利用し、漢字に注目して読むことで速読できます。目次をよく見ておくことも有効です。

英語では、返り読みをせずに、英文を頭から読み下すことが必要です。音読することで英文を読む速さを高めることができますが、1分間に150語程度が限界です。黙読し、内言を止め、名詞や動詞などの内容語に注目し、機能語を軽く読むと良いでしょう。

フォトリーディングは、ポール・シーリイによって提唱された速読法で、一分間に25,000文字を読解することが可能だとされていますが、その効果を疑問視する研究者もいます。

アメリカではeyeQと呼ばれる速読法が行われており、学生の学習能力の向上や企業の業務効率改善に効果を発揮しています。

参考図書

佐々木豊文　『毎分10万字を読破できる超速読脳トレーニングの秘密』（2015年、こう書房）
寺田昌嗣, 玉城博正『決定版! 超カンタン速読入門』（2002年、金の星社）
川村明宏　『かんたんスポーツ速読トレーニングドリル』（2010年、毎日コミュニケーションズ）

外部リンク

NBS日本速読教育連盟

関連項目

読書
記憶術
脳力トレーニング
SQ3R
認知心理学
知覚
神経科学
脳科学
佐々木豊文
栗田昌裕
橘遵

脚注

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