連城訣

『連城訣』（れんじょうけつ）は、金庸による武侠小説であり、彼の作品群の中では比較的短編に分類されます。この物語は、主人公である狄雲（てき うん）が、幻の武術書「連城訣」を巡る陰謀と争いに巻き込まれていく様子を描いています。特筆すべきは、金庸自身の体験が物語の背景にあるという点で、作者のあとがきで明かされています。

物語は、狄雲が師匠である戚長発（せき ちょうはつ）とその娘で兄弟弟子の戚芳（せき ほう）と共に、師伯である万震山（ばん しんざん）の誕生祝いに訪れる場面から始まります。しかし、これが悲劇の幕開けでした。万震山とその息子である万圭（ばん けい）らによって、狄雲は無実の罪を着せられ、投獄されてしまいます。さらに、師匠は姿を消し、愛する戚芳は万圭に嫁いでしまうという、まさに不幸のどん底に突き落とされます。

牢獄の中で、狄雲は丁典（てい てん）という男と出会います。丁典は、全ての争いの元凶である「連城訣」について語り始めます。二人は、「連城訣」の秘密を探りに来る刺客たちを次々と倒し、最終的には脱獄に成功します。しかし、脱獄後、丁典は愛人である凌霜華（りょう そうか）が悲劇的な死を遂げていたことを知ります。

再び一人になった狄雲は、師匠の復讐を誓い、その過程で「連城訣」の謎を解き明かしていきます。この物語は、狄雲をはじめとする善側の登場人物たちが、次々と悲惨な運命を辿る一方で、悪役たちが二面性を持つ陰険な人物として描かれているのが特徴です。例外として、純粋な悪人である血刀老祖（けっとうろうそ）が登場します。

物語の展開は、雪山での壮絶な死闘や、その後の半年間にわたるサバイバル、そして「連城訣」の謎解きなど、様々な見所があります。しかし、その悲惨さから、読者の間での評価は大きく分かれています。また、徳間文庫版では「金庸版・岩窟王」と紹介されているように、アレクサンドル・デュマの小説『岩窟王（モンテ・クリスト伯）』との類似性が指摘されています。金庸自身がデュマを愛読していたことから、物語の構想に影響を与えたと考えられています。

主な登場人物

狄雲（てき うん）: 主人公。「連城訣」の争いに巻き込まれ、次々と悲惨な目にあう。
戚芳（せき ほう）: 戚長発の娘で、狄雲の兄弟弟子。万圭に嫁ぐ。
戚長発（せき ちょうはつ）: 「鉄鎖横江」の異名を持つ。梅念笙の弟子だったが、師を裏切る。
万震山（ばん しんざん）: 「五雲手」の異名を持つ。梅念笙の一番弟子。「連城訣」を狙う。
万圭（ばん けい）: 万震山の一人息子。戚芳に一目惚れし、狄雲を陥れる。
言達平（げん たっぺい）: 梅念笙の二番弟子。乞食の姿で「連城訣」の秘密を探る。
梅念笙（ばい ねんしょう）: 「連城剣法」を極める。「連城訣」の秘密を丁典に託した。
丁典（てい てん）: 狄雲と同じ牢獄にいた男。「神照経」を会得し、狄雲の味方となる。
凌霜華（りょう そうか）: 丁典の愛人。父によって引き裂かれ、自害する。
凌退思（りょう たいし）: 「連城訣」を狙い、娘を利用しようとする。
血刀老祖（けっとうろうそ）: 残虐な血刀門の親玉。雪山で落花流水と死闘を繰り広げる。
落花流水（らっかりゅうすい）: 江南四老と呼ばれる義兄弟。陸天抒、花鉄幹、劉乘風、水岱の四人。
陸天抒（りく てんじょ）: 落花流水の長兄。雪山で血刀老祖に討たれる。
花鉄幹（か てっかん）: 落花流水の次兄。劉乘風を誤殺し、狂気に走る。
劉乘風（りゅう じょうふう）: 落花流水の三弟。花鉄幹に誤殺される。
水岱（すい たい）: 落花流水の末弟。水笙の父。血刀老祖との戦いで命を落とす。
水笙（すい しょう）: 水岱の娘。血刀老祖にさらわれるが、後に狄雲を信頼する。

キーワード

連城訣: 全ての争いの発端となる武術書。「唐詩選」に秘密が隠されている。
連城剣法: 別名「唐詩剣法」。詩を吟じながら使う武術。
神照経: 丁典が会得した内功。死者さえ蘇らせる力を持つ。
* 血刀法: 血刀老祖の剣技。狄雲も短期間で会得した。

『連城訣』は、人間の欲望や裏切り、そして絶望的な状況でも希望を失わない主人公の姿を描いた、金庸作品の中でも異彩を放つ作品です。

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