連邦海外腐敗行為防止法

連邦海外腐敗行為防止法（FCPA）とは

連邦海外腐敗行為防止法（The Foreign Corrupt Practices Act of 1977, FCPA）は、アメリカ合衆国の連邦法であり、主に以下の2つの重要な規定を持っています。

1. 賄賂禁止規定：外国公務員への不正な金銭の支払いを禁止する規定。
2. 経理規定：企業の会計の透明性を確保するための規定。

FCPAは、アメリカ国内だけでなく、海外での企業活動における不正行為を防止することを目的としています。特に、国際的な商取引における汚職防止において重要な役割を果たしています。

賄賂禁止規定の詳細

FCPAの賄賂禁止規定は、以下の行為を禁止しています。

対象者：上場企業、国内企業、およびその他の個人や団体。
行為：外国公務員、外国の政党、または政治職の候補者に対して、不正な目的（取引の獲得や維持）で金銭などの有価物を支払うこと、または支払いを申し出ること。
手段：州際通商の手段（電話、電子メール、交通手段など）を利用すること。

さらに、以下の行為も禁止されています。

上場企業や国内企業が米国外で行う不正な支払い。
上場企業でも国内企業でもない者が、米国内で行う不正な支払い。

間接的な支払も対象となり、第三者（仲介者やエージェントなど）を通じて賄賂が支払われる場合も、支払者が最終的な受取人を知っていた場合や、賄賂の可能性を認識していながら黙認していた場合は違反となります。また、賄賂の金額が少額であっても、その目的が不正であればFCPAの対象となります。

円滑化のための支払いについて

FCPAは、賄賂と円滑化のための支払い（facilitation payments）を区別しています。円滑化のための支払いとは、公務員が本来行うべき業務を円滑に進めるために行われる支払いで、現地法で違法でなければ容認されています。しかし、その区別は曖昧な場合もあるため、専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。

賄賂禁止規定の対象となる者

上場企業（issuers）：1934年証券取引法に基づいて株式が登録されている、または報告義務のある企業。
国内企業（domestic concerns）：アメリカ合衆国の市民、国民、居住者である個人や、アメリカの法律で設立された企業。
いかなる者（any person）：企業と個人の両方を含む。

経理規定の詳細

FCPAの経理規定は、上場企業に対してのみ適用されます。この規定は、企業の取引を正確に反映した会計書類を作成・維持し、会計の内部統制システムを確立することを義務付けています。これは、賄賂の支払いを隠蔽するような不正な会計処理を防ぐことを目的としています。

罰則

FCPAに違反した場合、以下の罰則が科せられます。

会社の場合：最大200万ドルの罰金。
個人の場合：最大5年以下の禁固刑、最大25万ドルの罰金、またはその両方。
* 代替罰金：違反行為によって得た利益または被害者の損害額の2倍相当の罰金が科せられる場合もあります。

FCPAの歴史

1970年代半ばに、アメリカ証券取引委員会（SEC）の調査で、400以上の米国企業が外国の公務員や政治家に対して3億ドルを超える不正な支払いをしていたことが判明しました。この背景には、ロッキード事件やバナナゲートなどの大規模な贈収賄事件がありました。

1977年、連邦議会はFCPAを制定し、外国公務員への賄賂を規制し、企業システムの正当性に対する信頼を回復しようとしました。1998年には、国際的な汚職防止条約に対応するため、FCPAが改正され、アメリカ国内での不正行為だけでなく、海外での不正行為も取り締まるように改正されました。

適用例

2008年、シーメンスはFCPA違反でSECと和解しました。シーメンスは2001年から2007年の間に、複数の国で約14億ドルの賄賂を支払い、11億ドルの利益を得ていました。この事件では、シーメンスはSECに3億5000万ドル、司法省に4億5000万ドルの罰金を支払うことになりました。また、ドイツの検察庁にも罰金を支払うことになり、合計でFCPA違反として史上最大の罰金が科されました。

他国における類似の立法

FCPAは、国際的な贈収賄防止条約に先駆けて制定された法律であり、長らくアメリカが唯一の贈収賄防止法を持つ国でした。しかし、1997年以降、経済協力開発機構（OECD）の賄賂禁止条約締結国では、類似の法律が制定されるようになりました。

日本における類似の立法

日本では、1998年の不正競争防止法の改正で、FCPAの賄賂禁止規定に類似する規定が設けられました。これにより、日本企業も海外での不正な贈賄行為が規制されるようになりました。

FCPAは、国際的なビジネスにおける透明性と公正性を確保するための重要な法律であり、企業はコンプライアンスを徹底し、不正行為を防止する努力が求められています。

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