過リン酸石灰

過リン酸石灰：歴史と現状

過リン酸石灰は、リン酸肥料として古くから利用されている重要な農業資材です。その歴史は、1840年代のリービッヒによる研究に遡ります。リービッヒは、骨粉に硫酸を作用させることで肥料としての効果を高めることを発見し、リンが植物生育に必須であることを証明しました。ほぼ同時期にイギリスでも同様の研究が進み、1843年にはリン鉱石に硫酸を加える肥料工場が建設されました。日本においては、高峰譲吉が1880年代後半にその製造に着手し、量産が始まりました。

成分と製法

過リン酸石灰は、第一リン酸カルシウムと硫酸カルシウム（石膏）の混合物であり、純粋な物質ではありません。第一リン酸カルシウムは水溶性で、植物が容易に吸収できるリン酸源です。肥料として利用される過リン酸石灰は、全リン酸として16～20重量％、水溶性リン酸を13％以上含むことが求められます。硫酸カルシウムは60重量％程度含まれており、硫黄や石灰分としても作用します。

製造方法は、粉砕したリン鉱石に硫酸を作用させるというシンプルなものです。化学反応式は以下の通りです。


Ca3(PO4)2 + 2H2SO4 + 4H2O → Ca(H2PO4)2 + 2CaSO4・2H2O

生産量と消費量

第二次世界大戦以前は、過リン酸石灰がリン酸肥料の主流でしたが、その後、尿素リン安やリン硝安などの新しいリン酸肥料が登場し、過リン酸石灰の生産量は減少傾向にあります。2001年の国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、世界の総リン酸肥料生産量は3354万トンで、アメリカ合衆国、中国、インドが主要生産国でした。消費量も生産量とほぼ同じで、中国、インド、アメリカ合衆国が主要消費国でした。日本は世界第10位の消費国であり、全世界の消費量の1.5％にあたる51万トンを消費していました。

窒素肥料の消費量は右肩上がりで増加を続けている一方、リン酸肥料とカリ肥料は横ばいの状態が続いています。リン酸肥料の世界消費量は1990年に4000万トン弱をピークに、減少傾向にあります。

性質と施肥方法

過リン酸石灰は、速効性肥料として知られています。水溶性の第一リン酸カルシウムが主成分であるため、植物が容易に吸収できるからです。しかしながら、日本の土壌、特に火山灰土壌に多く含まれるアロフェンという粘土鉱物とリン酸が強く結合し、植物への吸収を妨げる場合があります。この問題を解決するためには、有機質肥料や土壌改良剤を併用することで、アロフェンとの結合を抑制し、植物への吸収効率を高めることが重要になります。また、土壌中の微生物や菌根菌の働きも、リン酸の吸収に重要な役割を果たしています。副成分である石膏は、硫黄や石灰分としての肥効も期待できます。過リン酸石灰は、元肥、追肥のどちらにも使用できます。

関連項目

肥料
グアノ
* リン鉱石

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