道島五郎兵衛

道島 五郎兵衛（みちじま ごろべえ）は、日本の江戸時代末期に活躍した薩摩藩士であり、諱を正邦（まさくに）と称しました。その生没年について詳細は明らかではありませんが、薩摩国鹿児島城下の生まれと伝えられています。

彼は藩内で伝承されていた薬丸自顕流剣術の優れた使い手として知られており、その武術の腕は高く評価されていました。また、当時の薩摩藩において、主に下級武士を中心に結成され、政治的改革を志向していたグループである精忠組の一員としても活動していました。精忠組は、藩政に対する提言や、幕末の政局に対する藩の姿勢について、急進的な意見を持つ者たちが集まる組織でした。

文久2年（1862年）、尊王攘夷運動が高まる中で、薩摩藩内の急進派藩士である有馬新七らが、京都の寺田屋に集結するという動きがありました。彼らは過激な行動を起こすことを計画していたともいわれ、薩摩藩主島津久光は、彼らの暴発を抑えるため、鎮圧部隊の派遣を決定します。この鎮圧部隊は「鎮撫使（ちんぶし）」と呼ばれ、大山綱良、奈良原繁らがその中心を担いました。道島五郎兵衛もまた、この鎮撫使の一員に任命され、京都へ赴くことになります。

寺田屋に到着した鎮撫使は、集結していた有馬新七らに対し、速やかに藩命に従い帰国するよう説得を試みました。しかし、急進的な思想を持つ有馬らは、藩命を無視し、自分たちの計画を断行する構えを見せ、交渉は決裂に至ります。緊張が高まる中、事態が緊迫した際に最初に動いたのが、鎮撫使側の道島五郎兵衛でした。

彼は「上意（じょうい）」すなわち藩主久光公の命であると叫び、周囲に先駆けて刀を抜きました。この道島による最初の一太刀が、寺田屋事件として知られる激しい斬り合いの直接的な引き金となったのです。寺田屋の内部は瞬く間に血みどろの戦場と化しました。

壮絶な乱闘が繰り広げられる中で、道島は急進派の中心人物であり、自身も示現流の使い手であった有馬新七と刃を交えることになります。両者ともに剣の達人であり、一歩も引かぬ激闘を繰り広げた末、道島と有馬は互いに致命的な傷を負わせ、相討ちとなってその場で斃れました。この戦闘において、鎮撫使側で犠牲となったのは、道島五郎兵衛ただ一人でした。彼が事件の端緒を開き、そして事件の中心人物の一人との相討ちによって命を落とした事実は、この出来事における彼の役割の大きさを物語っています。

道島五郎兵衛のこの壮烈な最期は、寺田屋事件という幕末の重要な出来事の一幕として歴史に刻まれています。彼の行動は、藩内の対立が武力衝突に発展するきっかけとなり、その後の薩摩藩、ひいては幕末の動向にも影響を与えることとなりました。

彼の生涯や寺田屋事件での活躍は、後世の歴史関連作品でも描かれています。テレビドラマにおいては、以下の作品に登場しています。

『田原坂』（1987年、日本テレビ年末時代劇スペシャル、演：佐藤幸雄）
『翔ぶが如く』（1990年、NHK大河ドラマ、演：小林大介）
* 『西郷どん』（2018年、NHK大河ドラマ、演：鈴木有史）

道島五郎兵衛は、薬丸自顕流の剣技と、精忠組の一員としての思想を持ち合わせながら、藩命に従い寺田屋事件という歴史的な局面で重要な役割を担い、壮烈な最期を遂げた人物と言えるでしょう。

もう一度検索