道標 (小説)

小説『道標』の概要

『道標』（どうひょう）は、著名な作家・宮本百合子による小説で、1947年10月から1950年12月まで雑誌『展望』に連載されていました。作品は1948年から1951年にかけて筑摩書房から全3巻として刊行され、著者の死後も多くの読者に愛され続けています。

背景と構想

百合子は、本作を執筆する前に1920年代に書かれた小説『伸子』という作品を手がけており、その続編に取り組む意欲を抱いていました。この作品は、著者の個人的な経験を色濃く反映したものであり、特に彼女の離婚後の生活や、共同生活を送った湯浅芳子との関係、またソ連訪問やプロレタリア文学運動への参加など、幅広い社会状況が描かれることを目指していました。

百合子は1947年に『道標』の執筆を開始し、物語は1927年、モスクワに初めて到着する主人公・佐々伸子とその友人・吉見素子の二人から始まります。彼女たちのソ連での生活に続き、佐々一家が訪欧する際にはマルセイユでのエピソードも描かれ、再びモスクワに戻る過程での出来事が綴られます。最終的に、1930年に伸子が日本に帰国を決断するシーンで物語は締めくくられます。

作品の形成と評価

作者は、作品の成り立ちを新潮文庫『二つの庭』のあとがきで「『伸子』の物語は、こうして『二つの庭』においては、小さいクァルテットとなり、やがて『道標』ではコンチェルトにかわってゆく」と述べています。この言葉が示すように、作中のストーリーは単なる個人の体験に留まらず、より広範な社会的・政治的背景を読み解くことができる深遠な内容を持っています。

また、作品完結後には、続編として『春のある冬』や『十二年』というタイトルも構想に上がっていましたが、残念ながら著者の急逝により実現を見ませんでした。

重要な登場人物である湯浅芳子については、実在の人物であるだけでなく、物語中の描写において重要な役割を果たしています。彼女は「粉飾もあり、事実とちがうところもたくさんあるけれど、ただの旅人としての二人の日本女があの時代のソヴェトのあの雰囲気のなかで生活し、自分たちの故国の国ぶり生活ぶりとは全くちがう人間の生活の実態を日々その目で見てゆくうち、いつとなく地球上のその新しい国の建前や人間の営みがハラから納得されて来る」と述べており、重要な視点を提供しています。彼女の言葉は、物語が単なるフィクションであるだけでなく、現実を反映した社会的批評を含むことを示しています。

このように、『道標』は宮本百合子の個人的な経験と、彼女が生きた激動の時代を背景にして、深い考察を促す作品となっています。

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