遠い接近

遠い接近

『遠い接近』は、松本清張による1970年代の日本を舞台にした長編推理小説です。1971年から1972年にかけて『週刊朝日』で連載され、1972年に光文社から刊行されました。この作品は、旧日本軍の召集制度や軍隊生活、そして終戦後の闇市など、戦争の混乱を背景に描かれています。特に、家族を戦争で失った主人公が全面に出た物語であり、推理小説としての緊迫感と、深い人間ドラマが融合しています。

物語の概要

物語は1944年、33歳の色版画工・山尾信治が召集令状を受け取る場面から始まります。山尾は、身体検査を受けた際に「ハンドウを回された」と言われ、その言葉についての意味を後に知ることになります。彼は、出席が不十分だったための恣意的な召集ではなかったかと考え始めるのです。彼が混乱する中で、佐倉第五十七聯隊に配属され、私的制裁を受けた補充兵が同じ言葉を呟くのを聞きます。この出来事が、彼の心に疑念を抱かせるきっかけとなりました。

山尾は軍隊生活の中で、誰が自分を召集したのか、その真相を追い求めていきます。彼は時間をかけて調査を進め、様々な人物に出会いながら、犯人の手がかりを掴もうとします。しかし、時代は戦争の終焉を迎え、山尾は帰国するものの、彼の家族は原爆によって命を落とし、全てを失うことになります。この悲劇的な結末は、彼の復讐の計画に、大きな影を落とすこととなります。

登場人物

• - 山尾信治: 主人公であり、色版画工として働く父親。召集を受け、朝鮮へ赴く。
• - 山尾良子: 山尾の妻であり、彼を支える温かい存在。
• - 安川哲次: 山尾の軍隊仲間。召集兵をいじめる側で、物語において重要な役割を果たす。
• - 白石: 地元の酒屋を営む人物で、軍隊の助教でもある。
• - 与田喜十郎: 杂誌「真実界」の編集長で、登場人物の一人。

テレビドラマ化

この小説は1975年にテレビドラマ化され、タイトルは「松本清張シリーズ・遠い接近」となりました。ドラマはNHKで放送され、視聴率は15.7％という高い数字を記録します。視聴者に衝撃を与えたこの作品は、プラハ国際テレビ祭で金賞を受賞し、第30回芸術祭優秀賞も獲得しました。ドラマでは、小林桂樹が山尾信治を演じ、戦争の悲劇を視覚的に伝えています。

結論

『遠い接近』は、松本清張の作品の中でも特に深いテーマを扱った作品であり、戦争の影響が個人の生活にどのように作用するのかを描いています。主人公の失ったものを取り戻そうとして奮闘する姿は、多くの読者の心に響くでしょう。長編推理小説としての一面を持ちつつも、人間ドラマの深みを持つ本作は、松本清張の経験が色濃く反映された作品でもあります。

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