遠巷説百物語

作品概要

『遠巷説百物語』（とおくのこうせつひゃくものがたり）は、京極夏彦による妖怪時代小説集で、角川書店より出版されています。本書は、巷説百物語シリーズの第6作目にあたります。シリーズは、2018年に始まり、2020年までの連載をまとめたもので、妖怪マガジン『怪と幽』の各号に掲載されました。この作品は、著者が過去に著した『虚実妖怪百物語』と『西巷説百物語』の続編として11年ぶりの新作となり、第56回吉川英治[[文学賞]]を受賞しています。

ストーリーの舞台

物語は江戸末期の遠野を舞台に繰り広げられます。主人公は、盛岡藩筆頭家老である遠野義晋の命を受け、巷に流れる噂話を調査する宇夫方祥五郎という若い侍です。物語は通常の流れを逆手に取り、昔話を元の世間話に戻すというプロセスで進行し、各話が4章からなっています。この巧みな構造により、読者は物語の裏側に潜む真実に迫ることができます。

主な人物

宇夫方祥五郎

本作の主人公で、27歳の若侍。かつての阿曾沼氏の家臣の末裔で、遠野義晋に仕えています。無役無給ながら、義晋の命令で巷の噂を追い、真偽を見極める密偵の役を担っています。彼は誠実で人柄が良く、周囲の人々とも対等に接する姿勢を持っています。過去の事件や仲蔵との出会いを通じて、自身の道徳観に悩みながら物語が展開します。

乙蔵

祥五郎の幼馴染で、情報の提供者。素朴で自堕落な性格を持ちながらも、例外的に祥五郎の前ではその人柄を信頼します。彼の提供する噂話が物語の大きな要素となり、時には彼の行動が事件の引き金を引くことになります。

仲蔵

「長耳の仲蔵」として知られる彼は、裏稼業を営む小悪党で、大柄ながら心優しい一面を持っています。祥五郎と深い関わりを持ち、彼を導く役割を果たします。この二人の友情は、物語を進行するうえで重要なポイントとなるでしょう。

その他のキャラクター

さらに、義晋をはじめとする南部家の家族、奉行所の町奉行、医者といった多種多様な人物が物語に色を添えます。彼らはそれぞれに個性を持ち、物語の進行に合わせて絡み合い、物語の深みを増しています。

作品のテーマ

本作の魅力は、幽霊や妖怪の存在が描かれる中で、人間の本質や道徳観が探求されるところです。時代背景とキャラクター設定が緻密に組み合わさり、浮かび上がるのは人間の欲望や葛藤、そして道徳的選択の重さです。噂話という形を通じて、現実と幻想の境界が曖昧となり、読者は心の奥底に潜む様々な感情に向き合わざるを得ません。

『遠巷説百物語』は、単なる妖怪話に留まらず、人間ドラマや時代の流れが重層的に交錯する文学作品としての評価も高まっています。読者は物語の進行とともに、迷い、笑い、そして考え込むことでしょう。

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