遠藤寛子 (作家)

遠藤寛子（えんどう ひろこ）は、1931年に生まれた日本の児童文学作家であり、かつては教師としても教壇に立った人物です。三重県で生を受けた遠藤氏は、三重大学を経て法政大学文学部史学科を卒業しました。学業を修めた後、故郷である三重県の中学校や、東京都内の養護学校で教育者としての経験を積みました。その後、文学の世界へと活動の中心を移し、創作および評論活動に本格的に専念する道を選びました。

作家としての遠藤寛子氏は、歴史や日本の伝統文化、あるいは科学といった多様な題材を扱い、子どもたちが興味深く読み進められる質の高い物語を生み出してきました。特に初期の代表作として広く知られているのが、1969年に発表された『深い雪の中で』です。この作品は、第1回北川千代賞を受賞し、その文学性が高く評価されました。また、1974年に刊行された『算法少女』も、遠藤氏の重要な作品の一つです。江戸時代の和算をテーマにしたこのユニークな物語は、サンケイ児童出版文化賞を受賞し、多くの読者に愛されました。

『算法少女』は、長年にわたり読み継がれるべき作品として、読者からの強い要望を受けて、2006年には復刊ドットコムの投票による後押しもあり、ちくま学芸文庫から復刊されています。これは、遠藤氏の作品が世代を超えて支持されていることの証と言えるでしょう。

遠藤氏の著作は、これら代表作の他にも多岐にわたります。『かわいそうなあなた』、『このいぬをさがしてください』といった青い鳥文庫に収められた児童文学作品から、『きりしたん算用記』のように歴史的な背景を持つ物語、あるいは講談社火の鳥伝記文庫の『清少納言 春はあけぼの』や青い鳥文庫の『ギリシア神話』、『源平合戦物語』といった古典や神話、歴史上の出来事を子ども向けに解説・物語化した作品まで、その守備範囲は広大です。物語だけでなく、『戊辰米沢こぼれ話聞き書』や『算木の家』のように、特定の地域や歴史的事実に基づいた作品も手掛けています。また、PHP研究所から刊行された『天使はひそやかに - 丸山ちよの愛と献身の日々』のように、人物伝にも筆を及ばしています。

遠藤氏の活動は創作に留まりません。彼女はまた、明治期から昭和初期にかけて隆盛を極めた日本の少女向け文芸誌に関する造詣が深い研究者としても知られています。「少女の友」や「少女倶楽部」といった、かつて多くの少女たちの心を捉えた雑誌を対象に綿密な調査を行い、その文化的意義や編集姿勢などについて深く考察しました。こうした研究の成果は、評論活動として結実し、『「少女の友」とその時代 - 編集者の勇気 内山基』のような著作として発表されています。さらに、彼女はこれらの歴史的価値のある雑誌の復刻版の監修も手掛けており、過去の少女文化を現代に伝える役割も果たしています。

作家、研究者として精力的に活動する傍ら、遠藤氏は翻訳家としても一部作品を手掛けており、フランシス=E=H=バーネットによる児童文学の名作『小公子』（講談社、世界の名作 国際児童版）の日本語訳なども行っています。

教育者としての経験、歴史学を学んだ知見、そして少女向け文芸誌の研究で培われた広い視野は、遠藤氏の作品世界に深みと奥行きを与えています。子どもたちが楽しみながら学び、考えるきっかけとなるような作品を数多く世に送り出し、日本の児童文学界において独自の地位を確立している作家です。

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