適応 (医学)

医療分野で用いられる「適応（てきおう）」という言葉は、英語では「indication」と訳されます。これは、ある特定の医療行為、例えば病気に対する治療、薬剤の投与、手術、あるいは様々な検査などが、その対象となる患者さんの抱える疾患や病状に対して、どの程度適切で、行うべき妥当な理由が存在するかを示す概念です。

単に病気の状態を特定する「診断」とは異なり、適応は、その診断に基づいてどのような医療的介入が適切であるかを判断するための重要な基準となります。つまり、診断が「どのような病気か」を示すのに対し、適応は「その病気に対して、なぜ、どのような医療行為を行うべきか」を示すものと言えます。

一つの治療法や薬剤が、複数の異なる病気や病状に対して有効であり、その使用が認められる場合があります。この場合、その治療法や薬剤には複数の適応があると表現されます。

適応には、その妥当性の程度によっていくつかの分類があります。例えば、対象となる病状や患者の状態において、いかなる状況でもその医療行為を行うことが明らかに適切であり、高い効果が期待できる場合は、「絶対的適応（absolute indication）」と呼ばれます。一方で、特定の状況や患者さんの全身状態などを考慮した場合にのみ適切と判断される場合は、「相対的適応（relative indication）」と呼ばれ、個々の症例に応じて慎重な判断が必要となります。

適応と対義的な関係にある重要な概念として「禁忌（contraindication）」があります。これは、特定の医療行為を行うことによって、予測される治療上の利益よりも、患者さんにとって明らかにより大きなリスクや不利益が生じる可能性が高い場合に、その医療行為を行ってはならない理由を示すものです。適応が医療行為を行うべき理由であるのに対し、禁忌は行ってはならない理由であり、医療の安全性を確保する上で不可欠な概念です。

また、「健康保険適応（けんこうほけんてきおう）」という言葉もよく耳にします。これは、行われた医療行為や使用された薬剤などが、日本の健康保険制度における給付の対象となるかどうかを示すものです。健康保険の適応が認められる場合、医療費の一部または全部が保険から支払われるため、診療を受けた患者さん（被保険者）や保険者の経済的な負担が軽減されます。なお、この文脈では「適応」ではなく「保険適用（ほけんてきよう）」という言葉が用いられることも少なくありません。どちらの表現がより適切かについては議論がありますが、本来の日本語としては「適用」の方が馴染みやすいとする考え方もあります。

医師が患者さんに対して薬剤を処方したり、特定の医療行為を行う際には、その行為や薬剤が患者さんの診断名や主要な症状に対して適応があることを確認する必要があります。そして、特に薬剤を処方する際には、使用する薬剤の適応となる疾患名や症状を、診療録（カルテ）に正確に記載することが義務付けられています。これは、医療行為が患者さんの病状に対して正当な理由に基づいて行われていることを示し、適切な医療を提供するための重要な手続きです。

このように、医療分野における適応は、個々の患者さんに対する適切な医療行為を選択し、その正当性を担保するための、極めて基礎的かつ重要な判断基準となっています。

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