適法なるイエス

概要

『適法なるイエス』（Kosher Jesus、2012年）は、正統派ユダヤ教のラビであるシュミリー・ボウテイアクによる著作で、ユダヤ教とキリスト教の相互関係を中心に据えています。ボウテイアクは先に出版された『Kosher Sex』や『The Michael Jackson Tapes』など、20冊以上の著書を持ち、リアリティー・ショー『家庭の平和（Shalom in the Home）』のホストとしても知られています。本書では、1925年に改革派ユダヤ教のラビ・スティーヴン・サミュエル・ワイズがユダヤ人イエスに関する説教を行い、正統派ラビ連合から非難を受けたという歴史的背景が触れられています。また、ボウテイアク自身があるキリスト教宣教師との出会いにより本書を書くことを決意した経緯も紹介しています。

主な内容

本書では、1世紀の第二神殿期におけるユダヤ教と新約聖書の文脈を交えながら、イエスの教えの根源を探ります。ボウテイアクは、イエスの教えがラビ・ユダヤ教に強く基づいていることに注目し、史的なイエスに関する学術的な見解と初期ラビ文献の神学的理想を比較検討します。彼はイエスをメシアとはみなさないものの、「ユダヤ人は彼の神性を受け入れなくとも、イエスから多くの教訓を得ることができる」と主張し、イエスを倫理的で賢明な人物として位置づけています。

ボウテイアクはさらに、ユダヤ・キリスト教的価値観は「イエス自身がその橋渡しを行っている」と述べ、ユダヤ人に対するイエスの位置づけを再評価します。彼の考えによれば、イエスはユダヤ教の厳格な戒律を守り、ユダヤ人社会において重要な役割を果たしていたというのです。イエスがローマ人たちに対して抱いていた敵意や、彼の処刑が実際にはローマの圧政に起因するものであることを指摘し、ユダヤ人がイエスの死に関与していなかったと主張します。

ボウテイアクは、この著作を通じて「イエスの教えの源をトーラーやタルムードに求めることで、反ユダヤ主義の克服やユダヤ人とクリスチャンの友好関係の構築、さらにはユダヤ・キリスト教的価値観の強化につながることを願う」と希望を表現します。また、著名なユダヤ人学者ハイアム・マッコビーの研究にも言及し、彼の見解に賛同しています。マッコビーは、イエスがユダヤ教の主流派の教師であり、彼の教えが後に捻じ曲げられることになったと主張します。

反応と評価

この本に対する反応も多様です。『The Algemeiner Journal』の批評家ジェレミー・ローゼンは、ボウテイアクがクリスチャンにはイエスを神ではなく魅力的なユダヤ人青年として理解してほしいと願い、ユダヤ人にはイエスが異端者であり、過去2000年にわたり自らを迫害してきた宗教の創始者であることを考え直してほしいと述べています。

この本は、イエスという人物を新たな視点で捉えなおす試みであり、ユダヤ教とキリスト教の関係を再考するための貴重な資料となることを目指しています。イエスの教えの本来の意味や、その背景を深く理解する手助けとなる一冊です。

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