適者生存

適者生存とは

「適者生存（てきしゃせいぞん）」とは、もともと社会[[進化論]]を提唱した哲学者ハーバート・スペンサーが、1864年に著書『Principles of Biology』で提唱した概念です。英語では「survival of the fittest」と表現されます。この概念は、生物が生存競争を繰り広げる中で、環境に最も適応したものが生き残り、繁栄するという考え方を示しています。

チャールズ・ダーウィンもこの概念に影響を受け、自身の進化論に取り入れました。ダーウィンの進化論では、生物個体は「生存競争（struggle for existence）」の中で、自身の持つ形質が環境に適していれば、生存の機会が与えられると説明されています。この考え方が、支持者によって「生物に変化をもたらすメカニズムを的確に表現する」と見なされ、広く普及しました。

ただし、「適者生存」という言葉は比喩的な表現であり、科学的な専門用語ではありません。生物学でこのメカニズムを指す場合は、「自然選択」という言葉が用いられます。

適者生存のメカニズム

種の中で、遺伝する形質が環境に最も適している個体は、そうでない個体よりも多くの子孫を残す可能性が高まります。その結果、現在生存している種は、環境に適応し、繁栄することのできた「最適者」の子孫であると言えます。

「適者」は時に「強者」と解釈されたり、「弱肉強食」という言葉で言い換えられることもあります。しかし、「適者生存」は、環境への適応の結果を指すものであり、強さや弱さといった価値観とは本来無関係です。捕食者が「強」で、被捕食者が「弱」という解釈も成り立ちません。この種の議論は、古代ギリシャの著述家プラトンの著作『ゴルギアス』にも見られ、カリクレスの弱肉強食説に対するソクラテスの反論として登場します。

「弱肉強食」を自然の掟と捉えるような素朴な自然観は、ダーウィンの学説を持ち出すまでもなく、論理的に無理があります。ダーウィン自身も、スペンサーの考察力を評価しつつも、「彼が自然の観察により注意を払ってくれたなら」という趣旨のことを書簡で述べています。

スペンサーとダーウィンの違い

「適者生存」における「適者」の捉え方は、スペンサーとダーウィンで異なっています。スペンサーは、個体の生存闘争の結果として適者が生まれると考えたのに対し、ダーウィンは、個体それぞれが生まれつき持つ適応力に重点を置きました。これは、進歩的な社会思想と進化論を結び付けようとしたスペンサーが、進化の原動力を個人の意識的な努力に求めたのに対し、ダーウィンの自然選択説が本質的に決定論的であり、個々の生存闘争は確率論的な視点で捉えるべきだという考え方に基づいています。

また、「強い者が生き残るのではなく、変化に適応した者が生き残る」という言葉が、ダーウィンの言葉として広まっていますが、これはダーウィンの言葉ではありません。

適者生存への批判・対立する概念

現代の生物学では、「適者生存」とは異なる視点も存在します。

運者生存: 「適者が生き残る」のではなく、「運の良い者が生き残る」という考え方です。自然選択が直接作用する生物個体に着目すると、確かに生き残れるかどうかは運の影響も大きいと言えます。
分子進化の中立説: 分子レベルでの進化においては、多くの変異は自然選択に影響されず、有利でも不利でもない中立的なものです。その中立的な変異がグループ内に広まるかどうかは、運に左右される部分も大きいです。この意味での「運者生存」は、自然選択を否定するものではなく、広まった中立的な遺伝子が後の適応の土台となる可能性も考えられています。
創造論: 創造論者は、進化論に対する反論として、「生き残ったものが適者であり、適者が生き残る」という主張は循環論であり、科学ではないと主張します。

まとめ

「適者生存」は、環境に最も適応したものが生き残るという、進化のメカニズムを表す重要な概念です。しかし、誤解や批判も多く、多角的な視点からの理解が求められます。

関連用語:

進化
適応
中立進化説
進化論
ダーウィニズム
自然選択説
突然変異
* Matsya Nyaya（インド哲学における弱肉強食論）

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