遷化

遷化：高僧の死を伝える言葉

「遷化（せんげ）」は、高僧の逝去を丁寧に表現する言葉です。正式には「遷移化滅（せんいけめつ）」といい、死因を問わずに使われます。より丁寧な表現としては「御遷化（ごせんげ）」を用います。

語源と歴史

この言葉の語源は、この世での布教を終え、あの世での布教へと移るという意味に由来すると考えられています。しかし、その起源は仏教ではなく、古代中国の漢語にあります。例えば、『前漢書』には、高位の人物が亡くなった際に「遷化」が使われた例が見られます。そのため、元々は僧侶に限らず、地位の高い人物の死を表現する言葉でした。

「遷化」は特定の宗派の用語ではなく、中国や日本の仏教界で広く用いられています。中国では、「南泉遷化」（南泉禅師の死に関する公案）という有名な話があり、日本では室町時代の童子教に「遷化無常を歎く」という記述が見られます。

仏教の解釈としては、「化を遷す」すなわち、現世での布教を終え、別の世界で布教を続けるという意味で理解されることもあります。浄土真宗では、親鸞聖人の生涯を描いた絵画『本願寺聖人親鸞伝絵』に「洛陽遷化」という場面があり、また親鸞聖人の入滅の地には「見真大師遷化之旧跡」の石碑が建てられています。

宗派による違い

宗派によって、高僧の死を表現する言葉は異なります。曹洞宗では「示寂」を用いることが一般的ですが、新聞の死亡広告などでは「遷化」が使われることもあります。日蓮正宗では、「遷化」は法主や能化の死を表し、それ以外の僧侶の死には「逝去」という言葉が使われます。

寺院での対応

一般家庭では不幸があった際に「忌中」の札を掲げますが、寺院では僧侶の死去の場合、「山門不幸」という木製立て札が門に掛けられます。僧侶の家族（寺族）の場合、宗派や地域によって「忌中」札を貼付する場合と「山門不幸」の立て札を掛ける場合があります。

曹洞宗の寺院では、「山門不幸」の立て札に「當寺○○世××▲▲大和尚　令和○○年××月△△日　示寂」といったように、亡くなった僧侶の戒名と没年月日が記されるのが一般的です。ただし、方丈や東堂以外の僧侶や寺族の死には、「示寂」の使用や「山門不幸」の告知は行われないことが多いです。

まとめ

「遷化」は、高僧の死を敬意を持って伝える、歴史と伝統を伴った言葉です。その語源や仏教における解釈、宗派による違い、寺院での対応などを理解することで、この言葉が持つ奥深さを知ることができます。現代においても、多くの寺院で用いられ続ける「遷化」は、仏教文化の一端を担う重要な言葉と言えるでしょう。

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