選帝侯フリードリヒ賢明公のシカ狩り

『選帝侯フリードリヒ賢明公のシカ狩り』は、ドイツ・ルネサンス期の画家ルーカス・クラナッハ（父）が1529年に菩提樹板に油彩で描いた作品で、彼の初期の狩猟図の一つとして知られています。この絵画は、ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリヒ（1503-1554年）が、すでに故人であった父フリードリヒ賢明公（1463-1525年）と、神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世（1459-1519年）の狩猟を記念するために依頼したものです。

作品は1621年に神聖ローマ帝国のプラハにあった皇室コレクションに収められ、その後、1894年からはウィーンの美術史美術館に所蔵されています。この絵画には、1497年にヨハン・フリードリヒがインスブルックのマクシミリアン1世の宮廷に招待された際に行われたであろう狩猟の様子が描かれています。作品は高い視点から捉えられており、中央部では、狩猟者と猟犬がシカの群れを川の中に追い込んでいる様子が描かれています。シカたちは、画面左下の対岸の茂みにいる射手たちの格好の獲物となっています。

中景の左端には、1532年からザクセン選帝侯となるヨハン・フリードリヒが、画面右下には、本作が描かれた当時在位していたヨハン不変公（1468-1532年）が描かれています。画面中央下部には、召使を従えたフリードリヒ賢明公がおり、さらに青い服を身に着けた狩猟者が描かれています。この狩猟者はマクシミリアン1世の容貌をしています。川のカーブの部分には、小舟に乗って近づいてくる人々の姿があり、その中には、狩猟用の矢を持つ男性に付き添われた宮廷の女性たちや恋人たちがいます。また、丘の上には、現在では廃墟となっているマンスフェルトの城に似た建物が描かれています。

ヴィッテンベルク大学の教区牧師であったクリストフ・フォン・ショイルルは、1508年にクラナッハを称賛する文章の中で、クラナッハが君主たちの狩猟に同行したことを記しています。実際、クラナッハは多くの動物の習作を残しており、ネーデルラントで狩猟を好んだマクシミリアン1世と1508年に会見した際には、イノシシの絵画を贈っています。これらのことから、クラナッハが狩猟の様子を正確に捉え、作品に反映させるための綿密な観察を行っていたことが伺えます。本作は、当時の狩猟の様子を伝える貴重な資料であると同時に、クラナッハの卓越した描写力と構成力を示す傑作として高く評価されています。

この絵画は、単なる狩猟の場面を描写しただけでなく、当時の貴族の生活や文化、そして、クラナッハの芸術的な才能を今日に伝える重要な作品と言えるでしょう。特に、細部まで丁寧に描かれた人物や動物、風景は、見る者を当時の世界へと誘います。

参考文献

『ウイーン美術史美術館 絵画』、スカラ・ブックス、1997年　ISBN 3-406-42177-6

外部リンク

美術史美術館公式サイト、ルーカス・クラナッハ『選帝侯フリードリヒ3世のシカ狩り』 (ドイツ語)

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