遺山先生文集

『遺山先生文集』（いざんせんせいぶんしゅう）は、13世紀に成立した金代の文人、元好問（げんこうもん）によって編纂された文集です。「遺山」とは元好問の号に由来します。

概要

元好問は金朝末期の興定5年（1221年）に進士となりましたが、金朝滅亡後はモンゴル帝国に仕えることを潔しとせず、在野で金朝の記録編纂に尽力しました。彼は、滅亡した金朝に仕えた人々の碑文や墓銘を多く依頼され、それらを撰述しました。これらの文章は、後の『金史』編纂において重要な役割を果たしました。

特に、金朝がモンゴル軍に追い詰められた正大年間中の記録や、この頃モンゴルとの戦いで活躍した完顔陳和尚（かんがんちんわしょう）に関する『金史』の記述は、元好問が残した記録が元になっています。『遺山先生文集』は、当時の状況を知る上で欠かせない資料として高く評価されています。

元好問の文集は、元々、張徳輝（ちょうとくき）が編纂し中統3年（1262年）に刊行した詩文集40巻と、曹益甫（そうえきほ）が編纂し至元7年（1270年）に刊行された詩集20巻の2種類が存在していました。その後、李瀚（りかん）が弘治11年（1498年）に2つの文集をまとめたものが『四部叢刊初編』に収録され、現在に伝わっています。

現在伝わる『遺山先生文集』の内容は、詩賦14巻、表・制・碑・銘・記・序など26巻からなる40巻本です。明代の儲瓘（ちょかん）が『金史』文芸伝・墓銘・祭文をはじめ、著者に関連する詩文を集めたものが附録として末尾に加えられています。

内容

元好問の詩は、史実を題材にしたものであっても、固有名詞を避け、婉曲的な表現を用いることが多いのが特徴です。そのため、何を題材にした詩であるか判断が難しいものも少なくありません。清代の施国祁（しこくき）が道光2年（1822年）に著した『元遣山詩集箋』は、詩作の背景を理解する上で非常に役立つとされています。

参考文献

植松正「遺山先生文集」『中国史籍解題辞典』燎原書店、1989年
高橋文治『元好問とその時代』大阪大学出版会、2021年

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