郵便将棋

郵便将棋：手紙で紡ぐ、じっくり思考の将棋対局

郵便将棋とは、手紙を介して行われる将棋の対局形式です。互いの棋士が次の一手を記した手紙を送り合い、一進一退の攻防を繰り広げます。

その最大の特徴は、対局の長期化にあります。一局を完遂するには数ヶ月という時間を要することも珍しくありません。そのため、忙しい現代社会においては、なかなか実現できない、じっくりと時間をかけて戦略を練り、深く思考する将棋体験を提供します。落ち着いて長考できる環境は、普段時間がない人や、じっくりと戦略を練りたい人にとって大きな魅力となっています。

対局の進め方はシンプルです。プレイヤーは、自分の番になったら、次の一手を書いた手紙を相手に送ります。相手は届いた手紙を確認し、その一手を実行。そして、自分の次の一手を書き、再び手紙で送り返します。このやり取りを繰り返すことで、対局は進んでいきます。

郵便将棋の費用は、使用する通信手段によって異なります。かつては、はがきを利用することが一般的でした。一局の平均手数が約111手とされる将棋において、はがき一枚50円と仮定すると、一局を終えるまでに5000円以上の費用がかかる計算になります。そのため、多くの愛好家は複数の対局を同時進行することで、費用対効果を高めています。

20世紀末以降、インターネットや電子メールの普及により、メール将棋やインターネット掲示板を利用したオンライン将棋が登場しました。これらは、郵便将棋と比較して、通信コストが大幅に削減され、手軽に利用できるという利点があります。また、通信速度の遅い環境でも容易にプレイできる点も魅力です。

新聞の将棋欄においても、かつてはファクシミリが普及する以前、電話連絡を介して対局情報がやり取りされていました。これも、郵便将棋と同様、リアルタイムではないコミュニケーションによる将棋対局の形態と言えるでしょう。

郵便将棋は、近代的な通信手段の台頭によって影を潜めつつありますが、その独特のペース感と、じっくりと考える時間、そして手紙というアナログなコミュニケーション手段を介した人間味あふれるやりとりは、多くの愛好家にとって、忘れがたい魅力として残っています。現代の高速な情報伝達とは対照的な、ゆっくりとした時間の流れの中で、深い思考と戦略を駆使した将棋を楽しみたい方にとって、今もなお、魅力的な選択肢と言えるでしょう。将棋愛好家にとって、郵便将棋は、単なるゲームを超えた、時間と心の交流の場を提供していると言えるのではないでしょうか。

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