郷ひろみの宴ターテイメント

郷ひろみの宴ターテイメント：華麗なる音楽番組の幕開けと舞台裏

1989年、テレビ朝日の番組表に新たな音楽番組が登場した。『郷ひろみの宴ターテイメント』は、人気歌手、郷ひろみが初めて司会を務めた冠番組として注目を集めた。全6回、毎月1回放送されたこの番組は、豪華ゲストを迎え、華やかなステージを展開しただけでなく、その裏側には、ベテランスタッフによる綿密な準備と、当時の音楽業界の事情が複雑に絡み合っていた。

誕生の経緯と制作陣

番組は「水曜スーパーテレビ」枠内で放送され、収録はテレビ朝日六本木センター第7スタジオで行われた。初期の3回は生放送、以降は事前収録という形式を取っている。注目すべきは、その制作スタッフ陣だ。プロデューサー・演出を担当したのは、フジテレビの音楽番組『夜のヒットスタジオ』で名を馳せた疋田拓。番組構成作家、オーケストラバンド、音楽監督など、主要スタッフの多くが『夜のヒットスタジオ』から参加しており、疋田の演出力と人脈が『郷ひろみの宴ターテイメント』のクオリティを支えたと言えるだろう。当時、音楽番組制作に弱いとされたテレビ朝日において、この番組は、疋田の経験と手腕あってこその挑戦であったと言えるだろう。

テレビ朝日は同時期に、同じく疋田が担当した『アイドル共和国』を毎週土曜日に放送開始しており、音楽番組制作への本格的な参入を図っていたことが分かる。郷ひろみを司会に据え、90分の音楽番組というフォーマットは、他局の音楽番組関係者からも注目を集め、「裏番組にはなって欲しくない」という声もあったと伝えられている。特に、第4回と第5回には、芳村真理が郷ひろみの司会パートナーとして出演したことが話題を呼び、疋田の古巣であるフジテレビからは苦言が呈されたという噂も存在する。

豪華ゲストと衛星中継

番組には、森進一、沢田研二、八代亜紀、中山美穂、長山洋子ら、そうそうたる顔ぶれがゲストとして出演。谷村新司、布施明、テレサ・テン、荻野目洋子といった、世代を超えたアーティストたちが一堂に会した回もあった。特に目を引くのは、香港からの衛星中継だ。1989年6月21日放送回で、テレサ・テンが香港のホテルから最新曲「香港Hong Kong」を披露した。この衛星中継は、同時期に発生した中国の天安門事件の影響で、日本のアルバム宣伝活動を取りやめていたテレサ・テンの貴重なパフォーマンスとなった。衛星中継ディレクターには岩城利明が名を連ねている。

番組のテーマソングには、郷ひろみ自身の楽曲「最終便にまにあえば」が使用され、毎回生歌で披露された。この楽曲は、番組のオープニングとエンディングを彩り、郷ひろみの存在感を際立たせていた。

短命に終わった番組

しかしながら、『郷ひろみの宴ターテイメント』は、期待されたほどの視聴率を獲得することはできず、わずか半年で終了した。最終回となる第6回（10月25日）は、「美空ひばり追悼番組」として放送時間が30分拡大された。この事実からも、番組が抱えていた視聴率獲得の課題が窺える。

まとめ

『郷ひろみの宴ターテイメント』は、郷ひろみという人気アーティストを起用し、ベテランスタッフ陣が制作したにも関わらず、視聴率の壁を乗り越えることができずに短命に終わった番組であった。しかし、その豪華なゲスト陣、斬新な衛星中継企画、そして『夜のヒットスタジオ』を彷彿とさせる高い制作クオリティは、日本の音楽番組史に一つの足跡を残したと言えるだろう。番組の成功と失敗から、音楽番組制作における様々な要素、視聴者のニーズ、そして時代の流れといった多くの考察を促す番組であったと言えるだろう。

もう一度検索